ニューノーマル創出

重要施策である「レジリエンス」、「デジタル」、「グリーン」、「取引適正化」により、わが国の製造業は環境の変化に対応できる「企業変革力(ダイナミック・ケイパビリティ)」が求められています。
本会のものつくりポータルサイト「TSMAコネクテッド」を通じ、政府・業界の取り組みに関する情報を発信すると共に、会員企業の実態に即した対応策を検討していきます。

“材工一式” 展開、「建てる」を応援

タッセイ(福井市、田中陽介社長)は建築資材の卸売りと、建物の内装・外壁の施工を両輪に経営を展開する。「『建てる』を応援する会社」として、取引先工務店にとり面倒な事務処理の代行や、地域密着型の不動産仲介にも手を広げる。さらに若者にアピールする映画を制作し、建設の仕事の魅力を広く発信する。

TATの新メンバーに対する高速切断機の操作実習(タッセイ本社)

住宅と非住宅の両方がバランス良く好不調の波を補う。さらに専属の職人が加入するタッセイ職友会と、2017年に立ち上げた自社正社員の職人部門「TAT(タット)」で、現在約200人の職人を有し、販売と施工の“材工一式”が特徴だ。内装仕上げ工事では、地元の福井県立恐竜博物館、福井駅前ビル「ハピリン」、隣の石川県で金沢21世紀美術館など、地域の代表的物件に関わる。22年5月期の連結売上高は117億円。

21年には映画「くもりのち晴れ」を企画・制作した。若手職人のリアルな悩み、喜びを描いた内容だ。これらに先行し、職友会の親方の新人採用を後押しするため、1年間にわたり給与のうち月5万円をタッセイが支給する制度を作り、続いてTATを立ち上げた。それらの取り組みは国や大手ゼネコンからも注目されている。

ただ、そうした事業展開は「コロナ禍で一変した」と田中社長。物件の中断や中止、その後の資材高。厳しさが業界を覆う。同社は光熱費を抑える住宅ニーズを読み、カーポート屋根などを活用した自家消費型の太陽光発電をいち早く提案。補助金申請を含め、ワンストップで全体をカバーする知見を生かす。現在、カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)を急ぐ法人の需要で、手応えを得ている。

田中社長は19年に3代目として就任。学生時代に演劇と出会い、俳優の道を志した経歴の持ち主。27歳になる07年、後継者の道を決断した。入社後は工務店をサポートする瑕疵(かし)保険の申請代行など、新しい仕事に挑戦。故稲盛和夫氏の盛和塾で学び、経営者のネットワークも広げた。

創業時から独自色の強い事業モデルで、世代交代しながら継承。後継者難の企業から声がかかり、地元の木工品メーカー、隣の滋賀県の内装工事会社が傘下に入った。M&A(合併・買収)は今後、有力な選択肢となる。

厳しい要素が少なくない建築市場。そこに田中社長は「考え方しだいでチャンス、明るい先行きが描けるはず」と、積極経営、発信に力を入れる。(福井支局長・佐々木信雄)(木曜日に掲載)

【投資会社の目線/大阪中小企業投資育成 業務第1部・高林基文参事】

建設業界の人手不足が深刻化する中、正社員による職人チーム「TAT」は40人を超える組織となった。「建てる」を応援する会社を標榜し、自社の魅力を発信し続ける実直な経営姿勢に対してステークホルダーから強い共感を得ていることが背景にある。

時代に合わせて機種開発

躍動 ニューノーマルを生きる成長企業群(79)武内製作所

武内製作所(兵庫県尼崎市、武内隆哲社長)は1952年に創業、今年70周年を迎えたガラス成形機専業メーカー。製壜(びん)機の部品加工からスタートし、その後、壜や食器、レンズなどのガラス製品成形機に参入、今では専業メーカーで国内唯一の存在。「ガラスにこだわり、時代のトレンドに合わせた機種を開発してきたことで今がある」と武内社長は振り返る。

ガラス成形機からは壜や食器、レンズ、曲げガラス、ビー玉など、多様な製品が生み出される

高度経済成長期には壜が売れ、製壜機も活況だった。90年ごろをピークに壜製品の需要減少を受け、2000年ごろから研究開発に本腰を入れ、研究開発型企業に生まれ変わった。同社の成形機はフルオーダーメードで、機能の取捨選択やサイズなど要望に応じカスタマイズでき、価格も抑えられることが強みだ。現在の主力はレンズ成形機や曲げガラス成形機で技術力が求められるが、ここに研究開発型企業への転換が生きている。

国内ではレンズ成形機に注力する。スマートフォンのカメラや防犯カメラ、車載カメラなど小型レンズを中心に市場が急拡大するからだ。レンズ成形では10年にモールドプレスマシン「MVP―2010」を完成していた。しかし当時は他の開発案件に集中するため市場投入しなかった。武内社長の就任を機に事業化を計画、22年版にアップデートするための開発を再開した。

これには、18年に同機を理化学研究所に寄贈したことをきっかけに構築した共同開発体制も寄与する。武内社長は「手放すのは惜しかったが、寄贈して良かった」と語る。

研究開発には今後も力を注ぐ考えで、「製品・技術開発のタネをいかに拾うかが重要」(武内社長)と強調する。ガラス成形機では唯一の存在でも、それに甘んずることはない。

一方、ガラス業界以外への進出に向けM&A(合併・買収)も検討する。自社との親和性を踏まえ、新事業・市場開拓を図るだけでなく、後継者難企業が増える中、「そうした企業を何とかしたい」(同)との思いを込める。さらに海外展開にも力を入れ、今夏にエージェントを配置、中国を中心に東アジアでレンズ成形機と曲げガラス成形機の本格拡販にも乗りだした。

こうした業容拡大は「100年企業」が目標で、武内社長がそれまで企業を継続しバトンを渡すことを出口戦略と捉えるからだ。自身が引き継いだ時より成長・発展させ、その後につながるベースを作る。研究開発力強化やガラス業界以外への進出、海外展開はそのエッセンスだ。同社の挑戦は今後も続く。(大阪・谷正美)

【投資会社の目線/大阪中小企業投資育成 業務第2部・関啓吾主任】国内でも数少ないガラス製品の成形装置の専業メーカー。顧客ニーズに対応したフルオーダーメードの専用機を設計開発から立ち上げまで一貫して手がける。高精度で微細なガラスレンズが今後ますます必要とされる中、同社の活躍が期待される。