2025年現在、動画共有アプリ「TikTok」は、月間アクティブユーザー数が15億9,000万人を突破し、FacebookやInstagramに次ぐ世界規模のSNSとして確固たる地位を築いている。TikTokの特徴は、短尺動画と強力なレコメンドアルゴリズムによって、ユーザーが「検索せずに発見できる」体験を提供する点にある。Z世代の約40%が、商品や旅行先の情報をGoogleではなくTikTokで検索しているという調査結果もあり、検索エンジンの代替としての役割が急速に拡大している。
また、TikTokは単なる娯楽の場を超え、購買行動に直結するプラットフォームとしても注目されている。ユーザーの約48%が「TikTokで見た商品を購入した」と回答しており、とくにファッション・美容・食品分野での影響力が高い。2025年には広告収入が3.2兆円(約320億ドル)に達する見込みで、企業のマーケティング戦略においても不可欠な存在となっている。さらに、TikTokは「TikTok Shop」などのライブコマース機能を強化し、SNSとECの融合を加速。日本でも2025年6月から正式展開が始まり、国内企業の参入が相次いでいる。
一方で、TikTokは米中間の政治的緊張の渦中にある。アメリカ政府は、TikTokの運営企業である中国・ByteDance社に対し、国家安全保障上の懸念を理由に米国事業の売却を強く求めており、規制強化の動きを見せている。とくに問題視されているのは、TikTokのアルゴリズムが米国の若年層の政治意識や世論形成に影響を与える可能性である。一部の議員は「中国政府が米国の情報空間に介入する手段になり得る」と警鐘を鳴らしており、議会ではTikTok禁止法案の再審議も視野に入っている。
これに対して、中国政府はこうした動きを「技術覇権の妨害」と批判している。TikTokは、中国が世界市場で成功を収めた数少ないグローバルブランドの一つであり、アルゴリズムや技術の譲渡には強く反対している。ByteDance社も米国政府の要求に対して慎重な姿勢を崩しておらず、両国の対立は長期化する可能性が高い。
米中首脳、半年ぶりの直接対話へ——緊張緩和の糸口となるか
2025年9月19日、米国のドナルド・トランプ大統領と中国の習近平国家主席は電話形式による首脳会談を行い、両国関係の改善に向けた一歩を踏み出した。会談では、年内に対面での首脳会談を実施する方針で一致し、10月に韓国で開催されるAPEC首脳会議に合わせて直接会談を行う予定が示された。
トランプ大統領は、2026年初頭に中国を訪問する意向を表明し、習主席も「適切な時期に米国を訪問する」と応じた。両首脳は、経済・安全保障・技術分野における協力の可能性についても意見を交わし、とくにTikTokの米国事業売却問題に関しては「進展があった」とトランプ氏がコメントしている。
また、台湾海峡をめぐる軍事的緊張も議題に含まれていたとみられる。米国は台湾への支援を強化する姿勢を示しており、中国はこれを「内政干渉」として強く反発している。偶発的な衝突を避けるための対話ルートの確保が、両国にとって喫緊の課題とされる。さらに、米国内で深刻化していた合成麻薬フェンタニルの流入問題についても、トランプ氏は中国側に対し、製造・流通の取り締まり強化を求める方針を示したとされる。公衆衛生と治安の両面で、協力の可能性が問われている。
米国、TikTokに売却命令。国家安全保障と技術覇権の攻防
TikTok問題の発端は、単なるビジネス競争ではなく、米中間の情報戦および技術覇権争いの一環として位置づけられている。とくに2024年末、米国議会で「TikTok禁止法」が可決され、2025年1月19日を期限に米国事業の売却または撤退が求められる事態となった。この法律の施行により、TikTokは一時的に米国内のアプリストアから削除され、既存ユーザーもアップデートができない状況に陥った。その後、トランプ大統領は就任直後に75日間の猶予を与える大統領令を発令し、TikTokは米国内での運営を一時的に継続できるようになった。この間、ByteDance社は売却先の模索を開始し、マイクロソフトやオラクルなどの企業名が候補として浮上している。
こうした動きは他の中国製アプリにも波及している。中国版インスタグラムとも呼ばれる「小紅書(Xiaohongshu)」は、TikTokの代替として米国ユーザーの間で急速に人気を集め、2025年初頭にはiPhoneの無料アプリランキングで1位を獲得した。また、ByteDanceが開発した「Lemon8」も注目を集めており、TikTok難民の受け皿としてダウンロード数を伸ばしている。
米国政府は現時点でTikTok以外のアプリに対して明確な禁止措置を取っていないが、議会では「他の中国製アプリも同様のリスクを孕んでいる」との声が上がっており、今後の規制拡大も視野に入っている。TikTok禁止法は、単なるアプリ規制を超えて、デジタル時代における主権・自由・安全保障のバランスを問う立法として注目されている。米国社会では「安全か自由か」をめぐる議論が続いており、今後の展開が世界のデジタル政策にも影響を与える可能性がある。


