インド特派員 石﨑奈保子
インド政府が2014年に打ち出した「Make in India」政策は、製造業をGDP比25%に引き上げ、1億人規模の新規雇用創出を目指す構想である。税制簡素化(GST導入)、法人税率引き下げ、破産法整備、通関のデジタル化など、企業活動の障壁を取り除く改革が進み、世界銀行のビジネス環境ランキングは2014年の142位から2020年には63位へと改善した。鉄鋼や自動車、医薬品など輸出産業が育成され、粗鋼生産は世界2位、自動車生産台数は世界4位に迫る規模となった。
しかし、製造業のGDP比率や雇用創出は当初目標に未達であり、成長を牽引しているのはITサービスやBPOなどサービス産業である。農業依存やモンスーンの影響、物流・保管インフラの脆弱性といった構造的課題も残る。こうした背景から、規制・インフラ・技能育成を一体で改善する「第二のMake in India」が求められている。

一方、EV市場は急速な拡大を見せている。インド政府は2030年までに乗用車の40%、二輪・三輪車の80%を電動化する目標を掲げ、FAME(高速充電・補助金)やPLI(生産連動型優遇策)を通じてEV普及を加速している。GST税率もEVは12%と優遇され、ハイブリッド車は28%+15%と高税率で、政策の重点がEVにあることは明白である。さらに、2070年カーボンニュートラル宣言により、EV化は国家戦略の中核に位置づけられている。
富士経済による最新の調査によると、インドのEV市場は2022年比で2040年に30.2倍へと拡大する見込みである。この急成長の背景には複数の要因がある。まず、所得水準の上昇が挙げられる。インドの一人当たりGDPは2035年に4,300ドルに達すると予測されており、購買力の向上がEV需要を押し上げる。
次に、都市化の進展である。都市化率は現在の約35%から2040年には45%へ上昇し、都市部での移動手段としてEVの利便性が高まる。さらに、総保有コストの低減も重要な要因である。電池価格の下落と充電インフラの整備が進むことで、EVの経済性が向上し、普及を後押しする。
そして、政策支援も成長を加速させる。政府はPLI(生産連動型優遇策)を通じて国内製造を促進し、2022年時点で75社が認定を受けている。日系企業も現地生産体制を強化しており、インド市場におけるプレゼンス拡大を目指している。
.png)
Make in Indiaの進展とEV市場の急拡大は、日本企業にとって大きなビジネスチャンスである。とくに、電池、モーター、制御系部品など高付加価値領域での現地生産や技術支援は、輸入超過の是正にも寄与する。さらに、PLIによるインセンティブやサプライチェーンの脱中国化の流れは、日系企業の競争優位を高める要素である。
インドは「世界の工場」から「世界の人材資本」へ進化を目指し、EV化と製造業強化を加速中。政策後押しと旺盛な消費市場を背景に、今後10年で爆発的なEV普及が見込まれ、日本企業にとっては現地生産・技術協力・人材育成の三位一体戦略が鍵となる。
