認証取得は、お墨つきではない

 地球温暖化の防止に向けカーボンニュートラル(CN)への期待が高まる中、SBT認証という制度が注目されている。SBTはScience Based Targetsの略字で、パリ協定(2016年発効)が求める水準に整合した企業が設定する温室効果ガス排出削減目標のことをいう。パリ協定の最終的な目標は2050年までに排出量を実質ゼロにすることだが、SBTでは5~10年先の短期目標として産業革命以前に比べて1.5~2.0℃に抑えるシナリオと整合的になるよう、温室効果ガス排出量の削減を求めている。

 中でも今、注目されているのが中小企業向けSBT認証だ。本来のSBTは、スコープ1(燃料の燃焼など自社の直接排出)、スコープ2(電力使用など間接排出)、スコープ3(移動や製品の使用、廃棄、その他の間接的に排出される量)という、サプライチェーン全体の事業にまつわるあらゆる温室効果ガス排出量の削減を求めている。しかし、多くの中小企業にとって、サプライチェーン全体の排出量の責任を負うのは困難だ。そこで考えられたのが、スコープ1、2という自社での取り組みだけですむ中小企業(従業員数500人以下)向けのSBTである。

SBTに取り組むことを希望する企業は、基準年(2018年)の排出量を調べ、2030年までの目標値(42%削減が目安となる)を明記してSBTi(SBTイニシアティブ=運営事務局)に申請すれば、自社が設定した削減目標について認定を受けることができる。

 中小企業向けも含め、SBT認証制度はきわめて意義ある制度だ。認証を取得した企業には世間の好感度が増し、社内活性化にもつながることになるであろう。ただし、気がかりなこともある。クチコミやマスコミの伝え方にも問題がありそうだが、「認証を取得した企業=活動が活発な企業」と早合点する人が多いことである。実は、認証取得自体はそれほど難しいことではない。申請時に、目標達成までの詳細なロードマップの提示が求められるわけでもなく、基準年のデータとさえ整えれば、自動的に認証される仕組みであり、その気になりさえすれば、どこの企業でも認証取得は可能なのである。

 SBT認証の目的は、多くの企業で温室効果ガスの削減活動が活発になり、目標を達成してもらうことである。ところが実際には、認証は取得したものの、その後の活動は全く手つかずの状態の企業もあると聞く。認証取得自体は良いことであり、企業価値を高める絶好の機会でもある。その一方で、まるでお墨付きを得たかのように振舞ったり、必要以上に持ち上げたりするのは、本来の趣旨からやや外れているように思えてならない。前述したように、SBT認証の取得はさほど難しくはない。重要なのはその後の活動をどのように行い、どんな成果をもたらしているかなのである。