2040年に向けた素形材産業ビジョン~競争力強化と市場拡大~

 日本は、歴史的に「ものづくり大国」として知られ、その製造業は現在も日本経済を支える基盤である。しかし、未来を切り開くためには製造業にとどまらず、多様化や新たな分野への挑戦が必要となる。

 経済産業省が策定した2025年版「素形材産業ビジョン」は、デジタル技術や人材などの経営資源を活用し、日本がものづくり拠点としての機能を強化する構想である。日本の素形材産業は、2040年までに持続的な発展を目指し、現状を打破しながら積極的な改革を推進する必要がある。そのためには、需要先比率の見直し、海外展開比率の拡大、新技術の開発と普及の3つの目標を掲げ、それぞれの実現に向けた具体的な取り組みが求められる。

 需要先比率については、自動車産業の需要を維持・拡大すると共に、航空宇宙、産業機械、建設機械、ロボット、半導体製造装置、医療機器、エネルギーなどの高付加価値分野への供給比率を現在の3割から5割へ引き上げることを目指す。このため、新素材の開発に注力するだけでなく、電動化・自動運転の進展に対応した革新的な部品開発が不可欠となる。さらに、航空宇宙分野では超耐熱合金や軽量構造材を活用し、エンジン部品や機体構造材のさらなる改良が求められる。産業機械やロボット分野でも、精密鋳造や高強度鍛造技術の活用により、次世代製造装置の需要に応える体制を整える必要がある。

 次に、海外展開比率については、現状の3割から5割への拡大を目指し、国内外の市場競争力を最大化することが求められる。主要市場である北米、欧州、アジア各国への進出を加速させ、現地企業との提携を強化し、グローバル競争力を確立することが必要である。さらに、技術標準や品質規格の国際適合を進めることで、日本の素形材製品が海外市場で信頼を獲得し、長期的な展開の基盤を築くことが可能となる。国際競争力を高めるためには、海外の先進技術企業と共同研究・開発を進め、技術革新を加速させることが不可欠である。

 金属積層造形市場では、数%のシェアから世界トップ水準の2割への拡大を目指す。耐熱性・高強度の新材料開発を加速し、航空宇宙や医療機器などの分野への導入を推進することが求められている。金属積層造形技術の製造精度向上やコスト削減に努めることで、世界市場における競争力を強化し、その普及を促進する。また、AIやIoTを活用したスマートファクトリーの構築を進め、製造プロセスの最適化や品質管理の高度化を図ることで、競争力のある生産基盤の構築が必要である。

 さらに、環境負荷の低減を目指した持続可能な技術開発が求められている。再生材料の活用や省エネルギー型製造プロセスの導入を進めることで、カーボンニュートラルの達成に貢献し、国際的な環境規制への適応を強化する。とくにリサイクル可能な金属素材と低環境負荷技術の確立は、持続可能な社会形成に直結する重要な取り組みである。

 これらの取り組みを統合的に進めることにより、日本の素形材産業は世界市場での競争力を向上させ、持続可能な発展を遂げることが可能となる。技術革新を基盤とした産業変革を加速し、2040年に向けて確固たる地位を築くことが求められる。

素形材産業ビジョンで読み解く日本が進むべき道