前回は「素形材産業ビジョン」の総論について解説したが、今回はその各論である具体的な行動変容について説明する。経済産業省の「素形材産業ビジョン」は、持続可能な産業構築を目的とした指針を示すものである。本ビジョンにおいては、企業が自社の状況に応じた具体的な行動変容を実行することが求められている。そのための基盤として7つの論点が掲げられている。
まず、GX資源循環の促進においては、環境配慮型製品の開発や省資源化・再資源化の推進が必要である。新技術の導入と設備投資を通じて資源利用効率を向上させ、環境負荷の軽減を図ることが期待される。また、リサイクル技術の活用により再資源化をさらに広げ、限りある資源を無駄にしない取り組みを推進する必要がある。これらの施策により、持続可能な産業構築を目指す姿勢が求められている。
カーボンニュートラルへの生産体制移行は、極めて重要な課題である。その実現には、再生可能エネルギーの導入や高効率設備の採用によるエネルギー転換が求められる。また、廃材再利用技術の強化も欠かせない。さらに、サプライチェーン全体でのCO2排出量削減に向けた包括的な取り組みが必要である。
経済安全保障では、国内生産基盤を強化し、海外供給に依存しない安定的な製造体制を整備する必要がある。また、技術自立を推進し、重要分野において自国開発の能力を向上させることで、海外技術に頼らず競争力を確保することが可能となる。さらに、デジタル技術を活用してサプライチェーンの情報をリアルタイムで収集・分析し、迅速な対応を可能にすることが重要である。同時に、供給元の多様化を図り、緊急時でも供給が途絶えない仕組みを構築する必要がある。そして、新技術の研究開発への投資を積極的に進めることで、競争力を維持・向上させる。このような施策を通じて、柔軟かつ持続可能な経済構造が目指されるべきである。
取引適正化においては、透明性の高い取引慣行と公正な価格設定が重要である。契約条件の明確化を含む仕組みづくりを通じて企業間の信頼関係を構築し、公正で信頼性の高い取引環境を実現することが求められる。さらに、公正な価格設定を行うためには市場調査を定期的に実施し、取引価格が適切であるかどうかを検証するプロセスを取り入れることが重要である。これにより、相場を基にした価格設定が可能になり、企業間での不必要な価格競争を防ぐことができる。
DX(デジタル変革)と標準化の分野では、AIやIoTを活用した生産性向上や業務プロセスの効率化が進むべきである。とくに中小企業では、リアルタイムで生産稼働データを活用することで可能性を広がり、AIによる品質管理やクラウドプラットフォームを活用したデータ管理が現実的な方法として挙げられる。例えば、生産ラインでセンサーを活用し、設備の稼働率や不具合を検知し、予防保全や生産計画の最適化に役立てる技術が進んでいる。
また、AIによる品質管理では、機械学習モデルを利用して製品の品質を自動的に検査し、人的ミスを減らしながら正確性を向上させる仕組みが導入されつつある。これにより、製品の均一性を維持し、市場での競争力を高めることが期待されている。
さらに、クラウドプラットフォームを活用することで、データ管理が効率化される。生産データや顧客情報を安全かつ迅速に共有・保管できる環境を構築し、企業間のコラボレーションや意思決定の迅速化を可能にしている。これにより、中小企業が資源を最大限に活用し、競争力を持続的に向上させる道が開かれる。
人材育成と情報発信においては、熟練技能を次世代に継承することが不可欠である。VR技術を活用した研修プラットフォームの整備や地元職業訓練校との連携によって、若手が現場感覚を維持しながら技術を習得できる仕組みを構築する。また、研修プログラムに実際の業務体験を取り入れることで理論と実践を融合させ、技能伝承の基盤を強化することが求められる。情報発信おいては、デジタルコンテンツや技術マニュアルの共有を通じて、地域や社会とのつながりを深めることが重要である。
グローバル展開では、地域のニーズに応じた製品開発や軽量化・低価格化が成功の鍵である。市場ターゲットを明確にし、現地企業との連携を深めることが重要である。中小企業はその柔軟な対応力を活かし、ニッチ市場への適応を図るべきである。例えば、特殊素材を利用した部品製造や極小ロットでの生産ニーズに対応することによって競争力を高めることが可能である。
アジアの新興国では、軽量化や低価格化に特化した製品やサービスの開発が効果的であり、現地企業や機関との連携を図りつつ、文化や商習慣の違いに柔軟に対応する必要がある。
技術力の強化には新規技術の開発、技術革新、専門人材の育成が欠かせない。これには新規技術の研究開発や専門人材の育成に加え、外部との連携や技術共有の推進が含まれる。産業界と大学、さらには地域自治体との連携を活用することで、新たな技術や製品の研究開発が推進され、中小企業にとって重要な差別化要因となる。例えば、新素材の開発において、大学の研究施設や自治体の助成金プログラムを活用することで、技術的課題を克服しやすくなる。また、共同研究により知見を深めることで、市場ニーズに即した製品開発が可能となる。
素形材産業ビジョンの行動変容は、企業ごとに適した形で実行することが求められる。補助金の活用や外部機関との連携を通じて取り組みを推進するとともに、経済産業省のウェブサイトや事例集を参考にしながら、技術革新を加速させることが望ましい。
