トランプ関税

 2025年4月2日、トランプ大統領は相互関税を導入する大統領令に署名した。その後、4月5日にはすべての輸入品に対して一律10%の関税が発動され、4月9日には特定の国々に追加関税が適用された。これらの政策は、2018年に初めて導入されたトランプ関税の延長線上にあるもので、中国製品や鉄鋼、アルミニウム製品に対する追加関税が課されたことが始まりである。7年ぶりに「相互関税」という形で復活し、貿易赤字が大きい約60の国と地域に対して、トランプ政権が独自に算出した相互関税が発動された。日本は24%、EU=ヨーロッパ連合は20%、韓国は25%、中国には104%もの追加関税が課された。

 しかしながら、4月9日にはトランプ大統領が相互関税を90日間停止する決定を下した。ただし、基本税率の10%はそのまま適用されており、中国に対しては125%の関税が維持されている。この延期は、特定の国々との交渉を進めるための措置とされているが、全体的な政策の混乱は続いている。

アメリカの貿易赤字は過去最高

 2025年1月時点で、アメリカの貿易赤字は過去最高額の1,314億ドルに達した。とくに財貿易(物品の輸出入)の赤字が1,568億ドルにまで拡大しており、この状況の背景には輸入品の増加がある。とくに医薬品、携帯電話、金を含む完成金属の輸入が顕著である。また、コンピューターや周辺機器などの資本設備の輸入も増加しており、工業用品や原材料もその対象に含まれる。これらの要素が財貿易赤字の拡大をさらに加速させた。

 貿易赤字の原因としては、国内消費需要の高さや製造コストの格差、さらにはドルの為替レートが強い影響を及ぼしている。国内消費が活発であるため、海外製品への依存が増え、輸入量が拡大している。また、製造コストが安い国からの輸入が増える傾向があり、ドルが強くなることで海外製品が相対的に安価となり、輸入がさらに拡大する結果となる。貿易相手国の政策の違いも重要な要因である。各国の税率や規制が異なるため、アメリカの貿易収支に影響を与えている。また、トランプ関税の影響によって、企業が関税発動前に輸入を増加させる動きも見られた。

 トランプ関税の目的は、アメリカの貿易赤字を削減し、国内産業を保護することである。とくに、製造業や農業などの基幹産業を支援し、外国からの輸入品に対する依存を減らすことを目指している。また、アメリカの経済的な競争力を強化し、国際的な交渉力を高める狙いも含まれている。この政策は、国内経済の安定化と成長を促進するための重要な手段として位置づけられている。

 しかし、自国にとって有益とされるこの相互関税は、アメリカ国民に多面的な影響を及ぼしている。

 トランプ関税の導入によって、アメリカの輸出産業は複数の報復関税を他国から受ける可能性が高まっている。この結果、農産品や工業製品、とくに自動車など、アメリカの輸出の中心となる分野で価格競争力が低下することが懸念される。また、中国のような主要な輸出市場において、関税率の引き上げによりアメリカ製品の販売が困難になるケースも予想される。

 製造業が国内に戻っても、雇用が増えるとは限らず、自動化の進展がその影響を制限する可能性もある。さらに、アメリカの賃金の高さや熟練労働者の不足が、製造業復活の障害となることが指摘されている。短期的には、鉄鋼やアルミなどの調達コストが上昇し、企業にとって逆風となる可能性が高い。

貿易赤字を解消するためのアプローチ

 貿易赤字を解消するには有効な方策がいくつか考えられる。まず、輸出促進策の強化が挙げられる。具体的には、先端技術や農産品といったアメリカが競争力を持つ分野への投資を増やし、海外市場でのシェアを拡大することが重要である。また、国内の研究開発を支援し、高付加価値製品を創出する能力を向上させることも効果的である。

 輸入依存を減らすためには、エネルギー政策や製造業振興策の見直しが必要である。例えば、再生可能エネルギーの普及を進めることでエネルギー輸入の削減が可能となる。また、貿易協定を見直し、相手国との公平な条件を確保することも重要である。これにより、アメリカ製品が国際市場においてより有利な競争環境を獲得することが期待できる。

 世界貿易では伝統的に、自由貿易を推進するための枠組み(例えば、WTOのルールや多国間協定)が主流であり、これらは各国間の関税を引き下げることを目的としてきた。しかし、トランプ政権では特定の国との公平性を主張し、相手国が課している関税に応じて報復的な課税を行う政策を採用した点で従来の政策とは大きく異なる。

 保護主義は、短期的には自国産業を保護し、貿易赤字を削減する可能性がある一方で、長期的には多くの課題を抱える政策である。例えば、輸入品の価格が上昇し、その結果として国内消費者の負担が増加する可能性がある。また、貿易摩擦を引き起こし、他国との関係を悪化させることで、輸出業者に不利益をもたらすリスクも存在する。さらに、市場の競争を阻害することにより、国内企業のイノベーションや効率向上が妨げられる場合がある。

 関税収入とインフレの関係は、非常に興味深いテーマである。関税収入は政府にとって重要な財源である一方、関税の引き上げは輸入品価格を高騰させる要因となり、結果としてインフレ圧力を生じさせる可能性がある。一方で、関税収入を国内経済への投資に充てることにより、インフラ整備や産業支援を通じて経済成長の促進が期待できる。こうした政策運営では、経済への負担を最小限に抑えつつ、収益の効率的な活用によるバランスの維持が求められる。

トランプ関税による総収入は、日本円で数千億円規模に上るとされている