訪日外国人数は過去最多を記録
日本の観光業は、訪日外国人数の増加や産業構造の変化に伴い、今後も重要な役割を果たすと考えられる。円安傾向を背景に2025年3月の訪日外国人数は約349万7,600人と推計され、前年同月比13.5%増となり、インバウンド需要の拡大が続いている。2024年の年間訪日外国人数は約3,686万人に達し、過去最多を記録した2019年を約500万人上回った。とくに韓国、中国、台湾、米国からの旅行者が多く、日本経済への貢献度も高まっている。
産業構造の変化に伴い、観光業の重要性は一層高まっている。日本国内で収益規模が大きい産業は、卸売業・小売業(約520兆円)、製造業(約463兆円)、医療・福祉(約184兆円)などが挙げられる。一方で、観光庁の統計によれば、観光業は2019年にはインバウンド観光(外国人旅行者による観光)だけで約4兆8135億円の消費額が報告された。
製造業の縮小が進む中、観光業は地域経済の活性化において重要な役割を果たしている。しかし、観光業には季節変動や地政学リスクといった課題があるため、製造業の完全な代替には限界がある。近年、日本の製造業では事業所数や従事者数が減少を続けており、とりわけ電気機械や繊維工業の分野で大幅な縮小が見られる。一方、観光業は地域経済を支える要素として、年間約55.8兆円の生産波及効果と456万人の雇用誘発効果を生み出していることから、補完的な役割を果たす可能性が指摘されている。さらに、観光業と製造業を組み合わせた「産業観光」などの取り組みは、地域経済の新たな柱として期待されている。
観光業界の新戦略
日本のホテル業界は、富裕層の受け入れを強化する戦略を進めている。その背景には、インバウンド需要の拡大と観光消費の変化にある。とくに、富裕層の旅行者は高級ホテルや特別な体験を求める傾向が強い。政府は2030年までに訪日外国人を6,000万人に増やし、旅行消費額を15兆円にする目標を掲げており、これに伴いホテル業界も高級化戦略を推進している。
また、円安の影響で、日本の高級ホテルの宿泊費は海外に比べ20〜30%安くなっている。欧米の物価高騰を背景に、日本のラグジュアリー市場が注目を集めることも要因の一つである。欧米のインフレが進む中、日本のホテルはコストパフォーマンスが高いと評価されており、客室単価を上げやすい状況にある。マリオットやヒルトンなどの外資系ホテルが日本各地に進出し、富裕層向けのラグジュアリーホテルを次々と開業している。政府もこれを支援するため、間取りの広い客室を設ける場合の容積率緩和などの規制緩和を進めている。
オーバーツーリズムが深刻化
オーバーツーリズムの問題が深刻化している。観光客の過剰集中により、公共交通機関の混雑や環境負荷の増加、文化遺産の損壊などの問題が発生している。京都では、舞妓さんへの過度な接触や写真撮影が問題視されている。鎌倉でも観光客の増加に伴い住民の生活環境が悪化し、日常の利便性に影響を及ぼしている。また、白川郷(岐阜県大野郡白川村)の世界遺産である合掌造り集落に観光客が集中し、騒音やゴミの問題が顕在化している。
観光業の課題への対策として、観光客の分散を図るため、オフシーズンの旅行を推奨する施策や、新たな観光地の開発が進められている。また、訪問者数を管理するために入場制限を導入したり、観光税を設定したりする取り組みも進行中であり、これらは環境保護にも活用される動きが広がっている。
地域住民との共生を目指し、住民の声を反映した観光政策の策定が求められている。そのため、持続可能な観光の推進にはデジタル技術の活用が不可欠である。拡張現実(XR)やスマートツーリズムの導入により市場の拡大が進み、さらにエコツーリズムの推進も今後の成長分野となるだろう。観光業の競争力を維持するには、地域資源の魅力を最大限に活用し、持続可能な観光モデルを確立することが重要である。
観光業は日本経済において重要な産業の一つである。急速な環境変化や地政学的リスクの影響を受けやすいため、柔軟性を持った適応力のある政策が求められる。さらなる発展には観光の多様性を高め、世界に向けて持続的に魅力を発信し続けることが重要である。
