VinFastの躍進とローカル企業の挑戦

 9月15日、ハノイに到着。思いのほか過ごしやすく、快適な気候に驚かされました。今回はFBCハノイへの出展を目的とした渡航です。移動中、車窓から街の様子を眺めていると、人々の活気ある往来とともに、VinFastのタクシーが数多く走っているのが目に留まりました。その光景から、ベトナムの産業が大きく変化していることを肌で感じました。

 VinFastは、ベトナム最大のコングロマリットであるビングループによって2017年に設立された自動車メーカーです。ハイフォン市に本社を構え、電気自動車(EV)、電動バイク、電気バスなどの製造を手がけており、世界水準の技術力と生産体制を誇っています。同社の工場では約90%の工程が自動化されており、欧米の技術やデザインを積極的に取り入れることで、国際競争力を高めています。BMWやピニンファリーナとの提携を通じて、品質とデザインの両面で高い評価を得ており、2023年には米国のNASDAQ市場への上場も果たしました。

 VinFastの成長は、ベトナム製造業全体に大きな影響を与えています。高度な自動化技術や国際的な技術提携により、国内の技術水準が飛躍的に向上しています。また、新工場の建設に伴い、地方都市では数千人規模の雇用が創出され、地域経済の活性化にも貢献しています。さらに、EV関連産業の育成も進んでおり、バッテリー、モーター、充電インフラなどの分野で新たな企業の参入が相次いでいます。VinFastの海外展開、とくに米国や欧州への輸出や現地工場の建設は、ベトナム製造業のグローバル競争力を高める重要な一歩となっています。

 一方で、米国市場では販売台数が伸び悩んでおり、収益化には時間がかかると見られています。また、国内販売の多くが系列のタクシー会社への供給に依存しており、一般消費者への浸透が今後の成長の鍵となります。VinFastは、単なる自動車メーカーにとどまらず、ベトナム製造業を牽引する存在として、今後の展開が注目されています。

 今回の滞在では、VinFastのような大手企業だけでなく、ベトナムのローカル企業にも新たな可能性が広がっていることを実感しました。ハノイに拠点を置く精密加工企業「BINHMINH TMC CO., LTD」と、統合型ソリューション企業「AUTOMECH」を訪問し、それぞれの取り組みを伺いました。

 BINHMINH TMCは2008年に設立され、Nam Thăng Long工業団地に本社を構える精密機械加工企業です。CNC加工を中心に、金型、治具、試作品などの設計から量産までを一貫して手がける体制を築いています。旋盤、フライス、マシニングセンターなどの最新設備を駆使し、プラスチック金型、プレス金型、ゴム金型など多様なニーズに対応しています。検査治具や溶接治具、組立治具の製造も行っており、製造工程を支える重要な部品の供給元として高い評価を得ています。

 また、クロムメッキ、アルマイト、焼入れ、窒化処理などの表面処理・熱処理技術も備えており、製品の耐久性と機能性を高める加工にも対応しています。顧客の約90%は日本企業であり、日本製設備の導入により品質と納期への厳格な要求に応えています。VA/VE(Value Analysis / Value Engineering)にも対応しており、コストと品質の最適化を図る姿勢が、国際的な信頼を獲得する要因となっています。

 現在、従業員数は約450名、年間売上は約30億円規模に成長しています。資本金は約6億円で、国内外の製造業者との取引を通じて安定した経営基盤を築いています。ISOなどの国際規格に準じた管理体制を整備し、持続可能な製造活動を目指す姿勢が、同社の信頼性をさらに高めています。

 AUTOMECHは、ハノイを拠点に製造業向けの機械設備と統合型生産ソリューションを提供する革新的な企業です。社名はAutomation(自動化)とMechanical(機械加工)を組み合わせた造語であり、技術志向と未来志向を象徴しています。

 同社は、CNC旋盤、フライス盤、レーザー切断機、プレス機、ベンダーなどの高性能機械の提供に加え、原材料投入から完成品までの一貫した生産ラインの構築を支援しています。効率的な投資計画や品質基準の設定、将来的な拡張性を考慮したコンサルティングも行っており、顧客の課題に対して包括的な解決策を提示しています。

 約300名の従業員を擁し、技術者の育成にも力を入れています。社内では「生産のアーキテクト」としての視点を持つ人材を育成し、国内の工科大学との連携を通じて次世代技術者の育成にも積極的に取り組んでいます。また、中小企業との協業モデルを推進し、複雑な加工案件には適切なパートナー企業と連携することで、国内の生産ネットワークを強化しています。

 VinFastの台頭は、ベトナム製造業の可能性を世界に示す象徴的な出来事であり、それに呼応するようにローカル企業も技術力と信頼性を武器に新たな挑戦を続けています。BINHMINH TMCやAUTOMECHのような企業が、グローバル市場での競争力を高め、ベトナムの産業構造をより強固なものへと導いていく姿は、今後の成長を予感させるものでした。