2026年に施行される改正下請法(新名称:中小受託取引適正化法)は、親事業者と下請事業者との取引における公正性と透明性の確保を目的とした制度改正です。改正の背景には、原材料費や人件費の高騰により、下請事業者が価格転嫁を十分に行えず、経営が圧迫される状況が続いていたことがあります。政府は、こうした課題に対応するため、構造的な価格転嫁の定着と優越的地位の濫用防止に取り組んでいます。
改正下請法への対応強化
今回の改正では、手形取引の廃止、契約条件の電子交付義務化、従業員数に基づく取引区分の明確化、価格交渉記録の整備義務など、企業の実務に直結する新たな要件が加わります。これらの変更は、とくに中小企業にとって制度理解と運用面での負担が大きく、現場対応力の強化が急務となっています。東京都金属プレス工業会では、改正法への対応として、会員企業に向けた周知活動をはじめ、契約書式の見直しや価格交渉記録の整備支援、電子化対応に関する実務支援など、体制面の充実を図りながら、現場の対応力向上を支援してまいります。
【取り組みポイント】
- 改正法の趣旨と実務影響に関する会員企業への周知活動の実施
- 契約書式の見直しとモデル契約書の整備・提供
電子化・ITリテラシー支援
電子化対応に関しては、操作支援マニュアルの整備や研修会の開催など、実務レベルでの支援策を拡充することで、制度の形骸化を防ぎ、実効性ある運用につなげていく必要があります。中小企業の現場では、ITリテラシーの格差、人事・労務管理体制の不備、価格交渉記録の整備に対する心理的・時間的ハードルなど、複合的な課題が存在しており、これらに対するきめ細かな支援が求められています。
【取り組みポイント】
- 中小企業向けの電子契約・記録管理の操作支援
- ITリテラシー格差への対応としての個別支援策の検討
取引慣行の是正と意識改革
金属プレス業界には、長年にわたり価格据え置きや手形支払いといった商慣習が根強く残っており、原材料費や人件費の高騰に対して十分な価格転嫁が行われにくい状況が続いています。こうした慣行は、受託事業者の経営を圧迫する要因となっており、取引の公正性という観点からも見直しが求められています。また、発注内容が口頭で指示されるケースや契約書の不備が見受けられ、トラブル発生時に責任の所在が不明確となる事例も少なくありません。さらに、納期短縮や仕様変更への対応が一方的に求められることもあり、受託側の負担が過大となる傾向も見られます。これらの課題に対しては、発注者との対話を促進し、契約内容の適正化を図ることが不可欠です。業界全体としても、意識改革を進めることが重要です。
【取り組みポイント】
- 手形取引の廃止に向けた代替手段の提案と周知
- 価格据え置き慣行の見直しと価格転嫁の交渉支援
型の保管慣行の見直し
近年では、「中小企業組合等新戦略事業」の推進により、こうした取引慣行の是正に向けた取り組みが着実に広がりつつあります。しかしながら、依然として発注者から支給された型を受託側が長期にわたり無償で保管する慣例が残っており、保管スペースや管理コストの負担が受託事業者に一方的に偏っているのが現状です。今後は、型の保管に関する契約内容の明文化を進めるとともに、費用負担の適正化を図ることで、発注者との対等な取引関係の構築に向けた取り組みをさらに推進してまいります。業界としても、こうした課題に真摯に向き合い、持続可能で公正な取引環境の実現を目指していく所存です。
【取り組みポイント】
- 型の保管契約の明文化と契約書式の整備
- 型管理に関する実態調査と改善提案の実施