労働安全衛生法等の改正で職場環境の管理が新段階へ

法改正がもたらす職場安全衛生管理の転換点

 2025年に施行された「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律」は、単なる制度変更にとどまらず、企業の安全衛生管理の在り方そのものに大きな変化をもたらしました。今回の改正は、すべての働く人の安全と健康を守るための制度的な再構築であり、現場レベルでの対応が急速に進んでいます。

 まず注目すべきは、保護対象の拡大です。これまで法的保護の枠外にあった一人親方や外部委託者に対しても、安全配慮義務が課されるようになりました。とくに建設業では、危険作業時の退避措置や立ち入り禁止のルールが、雇用関係の有無にかかわらず適用されるようになり、元請企業は安全管理体制の見直しを迫られています。また、混在作業場所における連絡調整義務も強化され、複数の事業者が関与する現場では、情報共有の仕組みづくりが重要な課題となっています。

 次に、化学物質管理に関する規制強化も企業活動に大きな影響を及ぼしています。今回の改正により、新たに約700種類の物質が表示・通知の対象に追加され、企業はSDS(安全データシート)の更新やラベル表示の見直しを迫られています。とくに製造業や化学関連企業では、リスクアセスメントの実施が急務となっており、専門機関の支援を受けながら対応を進めるケースが増加しています。

 改正のポイントとして、まず通知対象物質に関する義務の強化が挙げられます。これまで努力義務とされていた「通知事項の変更時の再通知」が正式に義務化され、成分や危険性に変更が生じた場合、企業は速やかに関係者へ通知する責任を負うことになりました。さらに、SDSの交付義務違反に対する罰則も新たに導入され、法令遵守の実効性が一層高められています。

 従来の作業環境測定制度が抱えていた「情報の不透明性」や「実効性の弱さ」といった課題に対応するものであり、とくに化学物質を扱う製造業や研究機関にとっては、測定・評価・情報提供の一体的な管理が求められるようになります。作業環境測定制度においては、すべての測定業務に対し、作業環境測定士による実施が義務付けられています。中小企業にとっては、外部の測定機関との連携や測定士の育成・確保が現実的な対応策となるでしょう。

 今後は、測定機関や事業者が改正内容に即した運用体制を整備し、現場での安全確保と法令遵守の両立を図ることが重要です。制度の実効性を高めるためには、単なる法令対応にとどまらず、リスクコミュニケーションや教育訓練の充実も不可欠となるでしょう。さらに、営業秘密として成分を非開示とする場合でも、代替情報の提示や安全対策の説明が義務化され、情報の不透明性による安全管理の空白を防ぐ制度が整えられました。

 行政手続きの電子化も進んでおり、定期健康診断結果の報告などが電子申請に移行しています。これにより、事務処理の効率化と記録の正確性が向上し、企業の業務負担軽減にもつながっています。さらに、従業員数50人未満の事業場に対しても、ストレスチェック制度の義務化が段階的に進められており、メンタルヘルス対策の体制整備が急務となっています。

 これらの改正は、法令遵守の枠を超え、企業文化としての「安全衛生」の再定義を促すものです。とくに中小企業にとっては、限られたリソースの中で対応を進める必要があり、外部支援の活用や業界団体との連携が鍵となります。今後は、制度の実効性を高めるための運用指針の整備や、現場での教育・訓練の充実が不可欠です。

すべての測定業務に対し、作業環境測定士による実施が義務付けられた。