長くて、真っすぐな線路。

 穏やかな晴天のお正月休み、陸橋の上から、何も無くまっすぐ南に平行に伸びた線路を眺めました。
しばし立ち止まり、深呼吸。素敵な光景だと思いました。

 初回のわたくしのブログでは、この線路=平行線について書きたいと思います。
 まっすぐな直線も交わらない平行線も自然界には存在せず、人間が頭の中で作り出した概念だと読んだことがあります。
降ってくる雨や雪や日光も、厳密には幾何学的な直線ではありません。
 何故、自然界に存在していないものを人間の脳は概念として作り出すのか?いろいろ理由はあるのでしょうが、
そこに人の振る舞いや、生きるための理想の形があると考えたからでは無いかと思います。
 平行線は、「すれ違い」のようなネガティブな言葉にとらえられることもありますが、江戸時代の人たちは、
平行で交わらないことを「いき」と言う価値観で捉えたようです(九鬼周造「いきの構造」)。
簡単には交わらない、やり過ぎたら「野暮」であると言う感覚。衣服では、日本人の視覚的な美意識に訴えるのが、
特に着物の縦(たて)縞であると言われます。
 すでに江戸時代の人達は、平行線を美しいと捉え、グラフィカルで自然界に存在しない人工的な意匠への審美眼を醸成していったようです。
 
 私たちがなりわいとしているプレス加工のための金型ダイセットも、計算され設計された平行なガイドに沿ってパンチとダイが反復運動し、
精緻な製品がスタンピングされる仕組みです。まさに人間の叡智が作り出した文明の恩恵です。
 お正月の澄んだ冷涼な空気にさらされて、自分はなんだか平行に伸びてゆく線路の上を背筋を伸ばして真っ直ぐに歩いていけそうな気がしました。
 でも人生には直線も無ければ、平行線も無いと思います。これからも迷って畝々(うねうね)としてしまうのでしょうが、
この光景を時々は思い出したいです。
(KURIHARA)
 

一宮市一宮葭原 / 東海道線の跨線橋より