ギガキャスト技術がもたらす自動車産業の構造転換

 近年、自動車産業では「ギガキャスト」と呼ばれる革新的な製造技術が注目を集めています。これは巨大なダイカストマシンを用いてアルミニウム合金を高圧で一体成形することで、従来数百点に及んでいた車体部品を一括製造する技術です。とくにEVの生産においては、製造効率と構造的優位性の観点から、テスラやトヨタが導入を進めています。

 テスラは、SUVタイプのEV「モデルY」において、リアアンダーボディの構造部品にギガキャストを採用。従来約70点に及んでいた部品をわずか1点に統合することで、溶接や組立といった工程を大幅に削減し、生産効率の飛躍的な向上を実現しました。

 一方、トヨタも次世代EVに向けてギガキャストの導入を計画しており、リアアンダーボディの部品点数を86点から1点に、工程数を33工程から1工程にまで削減することを目指しています。これは、製造技術と設計思想の根本的な転換を意味しており、同社のEV戦略における重要な柱となっています。

 本会賛助会員のソディックは、テスラが採用するギガキャストのような超大型鋳造機とは異なり、精密・中型領域に特化した技術を展開しています。車体構造の一体成形ではなく、EVや電子機器に用いられる軽量部品の高精度成形に強みを持つ点が特徴です。とくに新素材への対応力と安全性の高さは、次世代製造技術としての可能性を示しており、今後はEV市場に加え、航空・医療分野への応用も期待されています。

中小企業に重くのしかかる初期投資

 ギガキャストは、鋳造による一体成形によって部品統合と工程集約を可能にし、設計の自由度を高める技術です。強度や安全性を確保しつつ、軽量化と材料効率の向上を実現できる点が大きな利点です。

 しかし、ギガキャストの導入には、巨大な鋳造設備への多額の初期投資が不可欠であり、中小規模の部品メーカーにとっては高い参入障壁となります。さらに、部品点数の大幅な削減はサプライチェーンの再編を促すとともに、雇用構造にも影響を及ぼす可能性があります。加えて、構造の一体化によって修理の難易度が高まり、結果としてアフターサービスやメンテナンスにかかるコストの上昇が懸念されます。

 ギガキャストは製造技術の革新にとどまらず、設計思想、産業構造、雇用体系にまで影響を及ぼす可能性を秘めており、自動車産業が迎える転換期において極めて重要な役割を担っています。

ギガキャスト導入でT1企業の役割はどう変わるか

 本会会員であるジーテクトとエイチワンは、車体骨格部品を主力とする部品メーカーとして、ギガキャスト技術への対応が注目されています。

 ジーテクトは、ホンダやトヨタを主要顧客とし、高度な溶接技術と軽量設計に強みを持っています。ギガキャストは溶接工程を不要にする技術であり、同社の既存技術とは方向性が異なりますが、現在は大型一体化技術やモジュール化提案を通じて代替的な対応を進めています。

 エイチワンもホンダ系のフレームメーカーとして、高張力鋼板の加工や複雑な骨格構造に対応する技術力を有しています。ギガキャストへの直接的な関与は公表されていませんが、EV対応の体制整備を進めており、米国での新工場設立など将来的な展開が期待されています。

 両社に共通する課題は、ギガキャストによる部品統合と工程削減が既存の製造技術を再定義する点にあります。サプライチェーンの再編や雇用構造の変化は避けられず、今後の技術開発や設備投資の方向性が、日本の自動車部品産業全体の競争力に直接的な影響を及ぼすと考えられます。