欧州委員会(European Commission)は、新車製造に再生プラスチック25%の使用を義務化するELV規則案を提案しており、そのうち4分の1は廃自動車由来とすることを求めています。これは日本メーカーにも直接影響を及ぼし、グローバルサプライチェーン全体で再生材利用を拡大せざるを得ない状況を生み出しています。日本では環境省が「プラスチック資源循環戦略」で2030年度までに再生利用を倍増する目標を掲げ、経済産業省も「循環型社会形成推進基本計画」で自動車ライフサイクル全体の脱炭素化を重要課題としています。
さらに両省は産官学コンソーシアムを立ち上げ、自動車向け再生プラスチック市場の構築を推進しています。実証事業では使用済み自動車を精緻に解体し、高純度な再生材を抽出して「Car to Car」水平リサイクルの可能性を検証しています。
業界団体である日本自動車工業会も2050年長期ビジョンを策定し、再生材活用を自主目標に組み込みました。とくにプラスチックリサイクルを中心に、自動車破砕残渣(ASR)のサーマルリサイクルからマテリアルリサイクルへの転換を進めています。
EUは2000年に「ELV指令(Directive 2000/53/EC)」を制定し、廃車から出る廃棄物を削減し、資源を循環利用する仕組みを整えました。この指令では鉛や水銀などの有害物質の使用制限、メーカーによる廃車の無償引取り義務、そして車両のリサイクル率や再利用率の目標設定などが定められています。ELVとは「End-of-Life Vehicle(使用済み自動車)」の略で、寿命を迎えた車両の廃棄やリサイクルに関するEUの環境規制を指します。
自動車は金属やプラスチック、ガラスなど多様な素材で構成されており、廃棄時には環境への負荷が大きくなります。そのため近年は改正が進み、車両設計段階から循環性を考慮することや、プラスチックの一定割合を再生材にする義務、「車両循環パスポート」の導入なども提案されています。
ただし、再生プラスチックの処理には大きな課題があります。品質の安定性に欠けることや、汚れや異物の混入による用途制限が問題視されており、焼却よりもリサイクル処理に多く費用がかかるため、企業にとってはコスト増につながりやすいのが現状です。PETボトルは「ボトルtoボトル」で循環が進んでいるものの、その他のプラスチックは土木資材や燃料利用に回されることが多く、付加価値の高い再利用が難しい状況です。
日本では廃プラスチックの約7割が焼却による熱回収、いわゆるサーマルリサイクルに回されており、素材として再利用されるマテリアルリサイクルは一割程度にとどまっています。その結果、焼却時に二酸化炭素が排出されて地球温暖化を促進するほか、海洋流出によるマイクロプラスチック問題も深刻化しています。かつては廃プラスチックを中国などに輸出していましたが、規制強化によって国内で処理せざるを得なくなり、処理能力不足が顕在化している点も課題です。
こうした問題に対応するため、各国では政策的な取り組みが進められています。日本では2022年に「プラスチック資源循環促進法」が施行され、分別収集や再資源化の強化が求められています。また、ケミカルリサイクルによる熱分解オイル化や、モノマテリアル化(製品や包装を「単一素材」で作ること。)によるリサイクル効率の向上といった技術開発が注目されています。EUでもELV規則や包装材規制において、再生材の一定割合使用を義務化する動きが加速しています。
このように、自動車向け再生材利用拡大は国内政策、国際規制、産官学連携、そして業界自主目標と密接に結びついており、単なる環境対応にとどまらず、競争力維持のための必須戦略と言えます。

推進している。

