
アメリカ特派員 藤吉孝太郎
米連邦最高裁は2月20日、トランプ政権が国際緊急経済権限法(IEEPA)を根拠に課してきた相互関税について、「議会が付与していない権限を大統領が行使した」として違法と判断した。IEEPA の文言は「輸入規制」を認めるにとどまり、関税を課す権限までは含まれないと指摘。経済的に重大な措置には議会の明確な授権が必要とする重大質問原則が適用され、IEEPA を根拠とする関税は全て無効化された。
IEEPA 関税の失効により、日本を含む多くの国への相互関税が即時に撤廃されたが、過去に徴収された最大2,000億ドル規模の関税を返還すべきかどうかは判断が示されず、今後の下級審で争われる見通しである。
判決直後、トランプ大統領は IEEPA の代替として1974年通商法122条を発動し、24日から150日間、輸入品に10%(のちに15%に言及)の新関税を課すと発表した。122条は国際収支の悪化を理由に最大15%の一時的関税を認める規定で、即時発動が可能だが恒久措置には使えない。政権はこの期間中に、より長期的な関税制度への移行を模索するとみられる。また、バッテリーや化学品など6産業を対象に、通商拡大法232条(国家安全保障)に基づく新たな関税措置の検討も進んでいる。
今回の判決は、自動車や鉄鋼・アルミなど、もともと232条を根拠として課税されている分野には影響しないため、日本の自動車関連産業に対する15%の関税は維持される。一方、IEEPA 関税の縮小は日本の実質GDPを押し上げる可能性もある。
日本企業への影響は時期によって異なる。短期的には、IEEPA 関税(10〜50%)の無効化により輸出企業のコストは一時的に低下したものの、122条に基づく10〜15%の新関税が導入されたことで、その効果はほぼ相殺された。中期的には、IEEPA 関税の返金が認められた場合、日本企業にも数百億〜数千億円規模の還付が生じる可能性がある。他方、日本政府が米国との交渉で約束した巨額投資や関税率維持については、前提条件が変化したことで、国内で見直しを求める議論が高まることも想定される。
長期的には、米国が保護主義的姿勢を続ける中で、関税の根拠となる法律が IEEPA、122条、232条など複数併存し、将来の関税水準が予測しにくい不安定な状況が続く。IEEPA 関税は当初から違法性が指摘されていたが、今回の判決は大統領の関税権限に明確な制約を示し、米国の通商政策の権限構造に大きな影響を与えるものとなった。
アメリカは近年、高関税により年間1,700億〜1,800億ドルの歳入を得てきたが、関税負担は輸入企業を通じて国内価格に転嫁されるため、物価上昇を招いたうえ、違法判断により最大1,750億ドルの返金リスクも生じている。関税収入は表面的には増加したものの、その負担は国内企業と消費者に転嫁されており、さらに返金リスクを抱えることから、財政面での純増効果は限定的である。

