書簡に隠されたトランプ流ディールのメッセージ

石破総理大臣宛の書簡を自身のSNSで公表

 アメリカのトランプ大統領は7日、8月1日から日本からの輸入品に対して、25%の相互関税を課す新たな税率を通知する石破総理大臣宛の書簡を自身のSNSで公表した。

 この書簡では、日本との貿易関係について長年議論してきたが、関税や非関税障壁による継続的な貿易赤字を解消する必要があるとの結論に至ったと記している。また、両国の関係は残念ながら相互主義からはほど遠いとの認識も示された。

 日本の場合、貿易相手国との関税バランスを調整するため、乗用車に課せられていた追加関税は、従来の2.5%から大幅に引き上げられ25%となった。この措置はアメリカ国内の産業を保護し、輸入車の価格競争力を抑える狙いがある。

 一方、4月9日以降は日本からの輸入品には基本関税10%が適用され、さらに貿易相手国と同じ水準の関税を課す相互関税措置として14%が追加され、合計24%の関税が課せられた。ただし、上乗せ部分は8月1日まで延期されており、この期間中は実質的に基本関税10%のみが適用される。

 また、トランプ政権による相互関税の実施は確定しておらず、柔軟な対応の可能性も示唆されている。関税率で見ると、24%から25%の1%の増加に過ぎないが、それでも輸入品にかかる負担は軽視できない状況である。

 ホワイトハウスの説明によると、通商拡大法232条に基づく自動車や鉄鋼・アルミニウムなど特定品目への関税(自動車25%、鉄鋼・アルミは50%)は、今回の相互関税の枠外であり、追加関税とは別枠であるため、上乗せされることはないとしている。さらに書簡に記された「日本が関税を引き上げた場合、その分を25%に上乗せする」という発言は、日本側が報復措置とする関税引き上げを防ぐ圧力として機能しており、対抗措置を取らないようけん制する意図がある。

 一方で「もし、アメリカに市場を開放し、関税や非関税障壁などを撤廃する場合、書簡の内容について調整を検討する可能性がある」としており、今後の交渉次第では関税措置を見直す可能性を示唆している。

 日本は現在、関税の影響を最小限に抑えるための対策を模索している。石破首相は関税撤廃に向けた交渉を進めつつ、関税が国内産業に与える打撃を軽減する政策を検討している。自動車メーカーも生産拠点の移転や現地生産の拡大を進めることで、追加関税の影響を回避しようとしている。

 赤沢大臣は、日米関税交渉に7回以上訪米して、とくに自動車分野の関税撤廃を目指して取り組んでいる。しかし、アメリカ側の態度は厳しく、ベッセント財務長官との直接面会が実現しないケースもあった。その代わりとして、ラトニック商務長官との電話会議を重ねることで事態の進展を模索していた。

 交渉の焦点は自動車関税の完全撤廃と貿易赤字問題であるが、道筋はまだ不透明である。赤沢大臣は滞在期間を延長して交渉を続ける姿勢を見せたものの、合意には至らない状況が続いている。

主要な輸出産業全体で1兆円以上の損失になる可能性も

 トランプ関税が4月の水準から25%に引き上げられたのは、貿易交渉における圧力を強化するためとみられる。トランプ政権は、日本の市場開放や農産物・自動車分野での譲歩を引き出すために、象徴的な意味合いを持つ25%という数字を採用した。この引き上げには日本が十分な譲歩を行わなかったとの認識も背景にある。トランプ大統領は書簡の中で「市場を開放すれば関税の見直しを検討する」と明言し、交渉の余地を残しつつも日本が応じなければさらに関税を上乗せする可能性を示唆した。

 過去、日本の自動車に対するアメリカの関税が2.5%の抑えられていた理由の1つとして、日米間で長年にわたる貿易協定や交渉の成果が挙げられる。日本は米国市場に輸出を続ける中で、現地工場の建設を通じて、アメリカ経済に貢献したことも影響している。また、競争力のある市場を維持するため、低い関税が適用されてきたと言える。

 しかし、もしアメリカが自動車関税を2.5%から25%に引き上げた場合、車両価格は大幅に上昇する見込みだ。例えば、30,000ドル(約450万円)の車には、2.5%関税なら750ドル(約11万円)が加算されるが、25%関税では7,500ドル(約112万円)になる。この影響で日本の対米自動車輸出は、売上ベースで最大40%減少する可能性が指摘されている。それに伴い、日本のGDPに0.2%から0.36%のマイナス影響が及ぶとも試算されている。

 関税が25%に引き上げられた場合、日本の輸出産業への影響は極めて大きい。例えば、自動車の輸出額は約5.5兆円であるが、25%の減少が予測され、その損失額は約1.375兆円に達する見込みである。

 自動車部品については、輸出額が約1兆円であり、20%の減少による損失は約2,000億円と試算される。さらに、半導体関連製品の場合、輸出額が約1.2兆円であり、15%の減少によって損失は約1,800億円になると推測される。

 これらはアメリカの消費や産業を支える重要な輸入品であり、原動機、電気・電子機器、科学光学機器、航空機部品などがこれに続く。これらの輸出品は、日本の産業の競争力を象徴するものであり、アメリカ市場においても重要な役割を担っている。こうした製品を通じて築かれる経済的な結びつきは、両国間の信頼と協力をさらに深める鍵となり得る。

日米両国が互いの利益を理解し、貿易の持続的な発展を目指して取り組む姿勢が求められていると言えよう。

自動車関税の完全撤廃と貿易赤字問題の解消に向けた交渉が続く