子育て支援金制度は未来への投資か、それとも国民負担の増加か

少子化対策を支える支援金制度の枠組み

 子ども・子育て支援金制度は、日本政府が少子化対策の柱として導入を進めている新たな財源構築の仕組みである。子育て世帯を社会全体で支えるという理念のもと、2026年度から段階的に開始され、2028年度には年間1兆円規模の財源確保を目指している。財源は医療保険制度を通じて広く国民から拠出され、健康保険料や国民健康保険料に上乗せする形で徴収される。所得に応じて負担額が決まるため、たとえば年収600万円の会社員であれば、月額約500円の負担になると見込まれている。徴収は2026年度に約6,000億円規模で始まり、翌年には8,000億円、2028年度には1兆円に達する計画である。

 この支援金は、複数の子育て支援施策に充てられる。2024年10月からは児童手当が拡充され、所得制限が撤廃されるとともに、高校生年代まで支給対象が広がる。第3子以降については月額3万円に増額される予定である。2025年4月からは妊娠・出産時に10万円相当の給付が始まり、2歳未満の子どもを育てながら時短勤務をする保護者には賃金の10%を給付する「育児時短就業給付」が導入される。

 2026年4月には「こども誰でも通園制度」が創設され、保護者の就労状況にかかわらず、すべての子どもが一定時間、保育施設を利用できるようになる。また、育児休業中の所得補償を実質的に手取り100%とする「出生後休業支援給付」も段階的に整備されていく。この制度の意義は、子育てを家庭だけの責任とせず、社会全体で支えるという価値観の転換にある。「分かち合い」や「連帯」といった言葉が象徴するように、すべての世代が未来への投資として子育てを支える仕組みを築こうとする試みである。

制度に対する不公平感とその背景

 一方で、この制度に対して「不公平ではないか」との声も上がっている。支援金の拠出対象がすべての国民であるため、子どもを持たない人や高齢者にとっては、直接的な恩恵を受けない制度への負担に疑問を抱きやすい。制度理念が十分に浸透していない場合、その不満はより強く感じられる。また、支援金は医療保険料に上乗せされるため、高所得者ほど負担額が増える。これは応能負担の原則に基づくが、子育て支援という目的に対して、どの程度の負担が妥当かという点では、社会的合意が十分とは言えない。

 さらに、保育施設の整備状況や通園制度の受け入れ体制は自治体によって異なり、地域間でサービスの差が生じる可能性がある。これは「水平的公平性」の観点から、制度設計に改善の余地があるとされる。

 近年、国の施策では「健康保険料に上乗せする形での徴収」が増加傾向にある。これは単なる徴収方法の選択ではなく、制度設計上の戦略的な判断でもある。支援金制度においても、医療保険料に上乗せする方式が採用されており、生活保護受給者などを除くほぼすべての国民が対象となるため、徴収の網羅性が高く、行政コストも抑えられるという利点がある。

 このような徴収方法は、従来の「税」ではなく「社会保険料」の枠組みを使うことで、制度上の位置づけを曖昧にしつつも、実質的には広範な国民負担を可能にする仕組みである。「増税ではない」と説明されながらも、国民の実感としては負担増につながっているため、「隠れ増税」や「独身税」といった批判的な呼称が生まれる背景にもなっている。医療保険料は所得に応じて徴収されるため、応能負担の原則に沿いやすく、政治的な合意形成が比較的取りやすいという側面もある。一方で、制度の恩恵を直接受けない層にとっては、負担感や不公平感が強まる傾向にあり、制度の透明性や説明責任が問われる場面も増えている。

 支援金によって実施される施策の多くは、経済的に厳しい子育て世帯を直接支援する内容となっている。妊娠・出産時の給付や、時短勤務者への賃金補填、所得制限の撤廃などは、経済的な理由で子どもを持つことに不安を感じる層への後押しを意図している。ただし、制度が「低所得者のため」と明確に打ち出されているわけではなく、「社会全体で支える」という理念のもと、子どもがいない人や高所得者にも負担が求められるため、不公平感を抱く人もいる。とくに国民健康保険加入者の場合、世帯単位での徴収となるため、低所得でも世帯人数が多いと相対的に負担が重くなるケースもあると指摘されている。

 この徴収スキームの拡大は、財源確保の困難さと既存制度の活用による効率性を両立させようとする国の苦心の表れとも言える。しかしながら、制度の持続可能性を確保し、国民との信頼関係を維持するためには、制度の目的や使途を丁寧に説明し、納得感を醸成する広報戦略が不可欠である。

 子育て支援は、未来の社会を築くための根幹であり、個人の選択ではなく社会全体の責任として捉えるべき課題である。その理念を制度として定着させるためには、徴収方法の合理性だけでなく、言葉の力によって制度の意義を伝え、共感と理解を広げていく努力が求められる。公平性への配慮と、理念の共有が両立する制度設計こそが、持続可能な少子化対策の鍵となるだろう。

社会全体で支えるという理念に基づく子育て支援の新たな枠組み