2026年1月から、従来の「下請代金支払遅延等防止法(下請法)」が改正され、新たに「中小受託取引適正化法(通称:取適法)」として施行される。今回の改正は、労務費や原材料費の高騰により中小企業が十分な価格転嫁を行えず、経営が圧迫されている現状を踏まえ、サプライチェーン全体で適正な価格転嫁を定着させることを目的としている。改正の大きな特徴は、まず用語の見直しである。従来「親事業者」と呼ばれていた側は「委託事業者」に、「下請事業者」と呼ばれていた側は「中小受託事業者」に改められた。また「下請代金」という表現も「製造委託等代金」と変更され、上下関係を連想させる言葉を排し、より対等な取引関係を意識したものになっている。
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次に、適用対象の拡大である。これまで資本金基準のみで判断されていた適用範囲に、従業員数基準が新たに追加された。製造委託等の場合は常時使用する従業員数が300人以下、役務提供委託等の場合は100人以下であれば対象となる。さらに、従来の製造委託や修理委託、情報成果物作成委託、役務提供委託に加えて「特定運送委託」が新たに対象取引として追加され、荷役や荷待ちの問題に対応する仕組みが整えられた。
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禁止行為も強化された。従来から規制されていた買いたたきや返品強要、支払遅延などに加え、協議に応じない一方的な代金決定や手形払いの禁止、さらには違反行為を通報した中小受託事業者に対する報復措置の禁止が新たに盛り込まれている。委託事業者には具体的な義務も課される。発注内容を必ず書面や電子メールで明示すること、取引記録を作成して2年間保存すること、受領日から60日以内のできる限り短い期間で支払期日を設定すること、そして支払遅延があった場合には年率14.6%の遅延利息を支払うことが義務化された。正当な理由なく代金を減額した場合にも遅延利息の支払いが必要となる。
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さらに、執行体制も強化された。これまでは公正取引委員会や中小企業庁が中心であったが、事業所管省庁の主務大臣にも指導や助言の権限が付与され、複数の省庁が連携して違反行為に対応する「面的執行」が導入される。違反が疑われる場合には、公正取引委員会の相談窓口に連絡することができ、相談内容が委託事業者に知られることはない。委託事業者側も疑問点があれば相談可能である。
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このように、取適法は中小企業の利益保護と価格転嫁の定着を目的とした大幅な制度改正であり、委託側と受託側の双方に新しい義務と禁止行為が定められた。契約や支払、交渉のあり方を根本から見直す必要があり、実務においては契約条項の整備や交渉記録の保存体制がとくに重要となる。
東京都金属プレス工業会の対応ロードマップ
東京都金属プレス工業会では、取適法について会員企業の実務力強化と制度理解の促進を目的に、段階的な支援体制を整備する。まず、改正法の趣旨と実務影響に関する周知活動を開始し、説明会や資料提供を通じて現場対応力の向上を図る。契約条件の電子交付義務化や価格交渉記録の整備義務など、実務に直結する変更点が多いため、早期の理解と準備が不可欠である。
ロードマップは以下の通り。
・2026年1月までに改正法の条文や関連ガイドラインを精査し、契約書に反映すべき法令要件を整理する。
・2026年1月までに既存契約書式の棚卸しと改正法との整合性確認を行い、製造委託や加工委託など頻用される契約類型を優先的に見直す。
・2026年2月には改正法に準拠したモデル契約書のドラフトを作成し、条項ごとに目的や背景、実務上の留意点を注釈として添える。Word形式で整備し、複数の契約類型に対応できるパターンを用意する。
・2026年3月までに外部法務専門家によるリーガルチェックを実施し、会員企業のフィードバックを反映して修正を加え、確定版を完成させる。併せて契約書作成や見直しに関するセミナーを開催し、電子契約ツールとの連携方法や運用ルールを案内する。
・価格交渉記録については2026年2月から3月にかけて、交渉履歴の記録方法やフォーマットを提供し、交渉日・内容・合意事項・担当者名・証跡などを含めた信頼性の高い保存ルールを提示する。
・電子契約対応については2026年3月末までに電子契約サービスの導入支援と運用マニュアルの整備を完了させ、法施行時点で円滑な電子契約運用が可能な体制を構築する。
東京都金属プレス工業会では、改正法への対応を単なる制度順守にとどめず、会員企業の取引の公正性と透明性を高める契機と捉え、実務支援を強化していく。

