
ベトナム特派員 高橋 正志
刃傷沙汰まで起きた騒音トラブル
ベトナムでは2025年12月15日に施行された、政令282号/2025/ND-CPの影響が徐々に表れている。政令とは法律を具体的に実施するための細則で、これが出て初めて法律が動くようになる。政令282号は従来の144号/2021/ND-CPを置き換える形で、国内の社会秩序や家庭内暴力での行政罰が強化された。中でもメディアで頻繁に報道されているのがカラオケへの規制だ。
日本では防音設備がしっかりしたカラオケボックスで歌うのが一般的で、ベトナムにも似た施設はあるが、庶民は屋外の居酒屋や自宅(住宅地)で歌いまくる。この周囲の迷惑を考えない、大型スピーカーでの熱唱が、途轍もない騒音なのだ。どれくらいうるさいかというと、怒り心頭の隣人が殴り込みに行ったり、逆切れされて家を壊されたり、刃物で相手を殺傷する事件まで起きている。以前から社会問題となっていたのだ。
さすがにまずいと2021年に政令144号を施行したが、取締りの対象は夜22時から翌朝6時までで、市民の通報で警察(ベトナムでは公安)が駆けつけても歌を止めて音量を測定できないなど、不十分な内容だった。それが今回、時間帯枠は撤廃され、警察は騒音測定機器を使わずに違反者を摘発でき、最大で200万VND(約1万2000円)の罰金となった。ベトナムの統計総局によると2025年のベトナム人の平均月収は840万VND(約5万円)なので、200万VND取られるのはかなりキツイ。
また、専門機器で測定して基準を40dBA以上超えた場合は、最大で1億6000万VND(約97万円)の罰金となり、営業停止や測定費用の強制支払いもあり得る。
市民が安心感、テト休暇も静かに
自治体や警察が地域住民への新政令の周知に努め、早速罰金を課したケースが報じられるなどの効果もあり、急速にカラオケ騒音はなくなりつつあるようだ。ニュースサイトの記事によるとカラオケ規制は非常に好意的に受け止められており、「徹夜のカラオケはほぼ中止になりました」、「この状態が続くことを心から願っています」、「家で過ごす週末が平和になって本当の休息が取れます」などの声が掲載されている。
また、大型の高出力スピーカーの売行きが早速ダウンし、小型の屋内用音楽システムが選ばれているという販売店の様子も紹介された。私も大いに実感している。自宅近くに路上店の大きな居酒屋があり、週末に大音量でカラオケを歌うことがあった。本当にうるさかったが、外国人だし隣近所なので文句は言えなかった。それが今年1月に入ったころから静かになったのだ。本当に「この状態が続くことを心から願っています」。
この新政令が施行されたタイミングが絶妙で、テト(旧正月)前だ。祝日が少ないベトナムではテトが年に一番のビッグイベントで、帰省して家族や親戚と過ごす人も多い。大人数で懐かしい顔が揃えば、歌が始まるのは必定。その前に罰金を周知させて、テト休暇のカラオケトラブルを減らす意図があったのでは? ちなみに2026年のテト元旦は遅く、2月17日。2月14~22日をテト休暇とする役所や会社が多い。
新政令で外国人ルールも変わる
政令282号はベトナム在住の外国人にも適用される。すなわち大声でカラオケをすると罰金を食らうわけだが、外国人ならではの規制強化もあった。パスポートなどの身分証明書を携帯せずにベトナム国内を移動すると警告または30万~50万VND(約1800~3000円)の罰金。これは以前からだが、移動とは小旅行的な中長距離を意味し、常時携帯の義務はないと思われた。
それが、ホーチミン市の賃貸住宅やホテルで、滞在許可の「抜き打ちチェック」があり、外国人も対象となった。実務が変わったのかもしれない。
一方、滞在者について届け出なかった施設も、その規模や程度により、悪質な場合は最大1200万VND(約7万2000円)の罰金となる。私の部屋の大家も私の情報を役所に知らせているし、海外に出る際には出発日と帰国日を伝えるように頼まれている。オーバーステイへの罰金も厳しくなった。
超過期間が16日未満は従来と同じ50万~200万VND(約3000~1万2000円)だが、16日以上は罰金額が引き上げられ、180日以上1年未満は2500万~3000万VND(約15万~18万円)、1年以上なら3000万~4000万VND(約18万~24万円)になった。日本が外国人規制を強めているように、ベトナムでは外国人の管理を強化している。それはわかるが、近所のカフェやコンビニに行くのにパスポートを持っていくのは少々面倒くさい。



