
タイ特派員 齋藤正行
タイと日本で与党が大勝
タイで2月8日、下院(定数500)の総選挙が投開票された。小選挙区400、比例代表100の議席を各党が争った結果、アヌティン・チャーンウィーラクーン首相が党首を務める与党プームジャイタイ(タイの誇り)党が、2月中旬時点の暫定集計で193議席を獲得し、他党を大きく引き離して最大勢力となった。単独過半数には届かないものの、小選挙区を中心に大きく議席を伸ばし、政権基盤を一段と強化した。
時を同じくして日本でも衆院選が行われた。やはり与党が大勝する結果となり、両国で保守勢力が優位を固める選挙となった。
プームジャイタイ党はもともと地域主義色の強い中道政党と位置づけられてきたが、近年は治安や国家主権を重視する保守的な姿勢を鮮明にしている。今回の選挙では、カンボジアとの国境を巡る緊張の高まりを背景に、国民の愛国意識が強まったことが追い風となった。同党は一貫して、強硬な国境管理や主権擁護を主張。事前の世論調査を上回る支持を集め、結果として圧倒的な得票につながった。
アヌティン首相は2025年6月、当時副首相兼内相として参加していた連立政権から、自ら率いるプームジャイタイ党を離脱させた。ペートーンターン・チナワット首相(当時)とカンボジアのフン・セン元首相との電話会談音声が流出し、同政権がカンボジア寄りと受け止められる姿勢を示したことで国内の反発が強まったことが、連立離脱の直接の契機となった。発言問題が浮上した時点で、アヌティン首相はペートーンターン政権の崩壊を見越していたとみられる。離脱早々、野党の有力政治家と会談するなど、首相就任を視野に入れた動きを本格化させていた。
一方、タクシン・チナワット元首相が実質的な影響力を持つとされるプアタイ(貢献)党は、暫定で74議席にとどまり、前回総選挙から大きく議席を減らした。王室改革や民主化を掲げ、若年層から支持を集めてきたプラチャーチョン(国民)党も118議席にとどまり、「支持率トップ」といった複数メディアがもてはやしたが、ふたを開けてみればかけ離れた結果だった。
選挙前は、プームジャイタイ党、プアタイ党、プラチャーチョン党による「三つ巴の争い」が予想された。しかし2月中旬の暫定集計として、プアタイ党とプラチャーチョン党の獲得議席を合計してもプームジャイタイ党のそれには及ばなかった。野党全体として存在感を示せなかった点は、日本の衆院選で野党が苦戦した構図とも重なる。ただ、敗北したといっていいプアタイ党は、アヌティン政権への連立参加が決まった。
政権継続でxEV・観光政策を維持
選管が一部投票所での再投票や再集計を命じており、議席配分の公式確定まで数週間を要する見通しだ。しかしアヌティン政権の継続はほぼ確定しており、今後も電気自動車(EV)やハイブリッド車(HEV)を中心とする電動車(xEV)の製造拠点化や観光立国路線を柱とする経済政策を継続するとみられる。
外国からは2025年、デジタル関連産業、先端技術産業、環境配慮型産業(グリーン産業)への直接投資が目立ち、2026年もこれらの分野を中心にさらなる成長が見込まれている。タイ投資委員会(BOI)によると、2025年の日系企業の対タイ投資額はおよそ1200億バーツ(6000億円相当)と前年の2倍超に拡大し、自動車、電子、デジタル分野が中心だった。
一方で、カンボジア国境の閉鎖が長期化すれば、陸路物流に依存する企業への影響は避けられない。対カンボジア強硬姿勢で支持を得た政権だけに、急激な軟化は見込みにくく、国境貿易に関わる日系企業は物流ルートの見直しや事業再編を迫られる可能性がある。


