働く時間を延ばせば成長する? ドイツ社会に広がる論争

ドイツ特派員 畠山佳奈子

 今回は、2026年2月12日にドイツの国際公共放送「ドイチェ・ヴェレ(DW)」で放映された討論番組「Are Germans working too little? And would more work really boost the economy?(ドイツ人は働く時間が少なすぎるのか? そして、もっと働けば本当に経済は成長するのか?)」という、やや挑発的なタイトルの番組についてお伝えします。

スクリーンショット:Are Germans working too little? And would more work really boost the economy? | To the Point より

 本内容が、ビジネスなどでドイツ人と接する際の参考になれば幸いです。この番組では、ドイツ経済の停滞をめぐる近年の議論を取り上げ、「ドイツ人は本当に働く時間が少なすぎるのか」「労働時間を延ばせば経済成長につながるのか」という問いを多角的に検証していました。番組の背景には、ドイツの年間労働時間が他の先進国と比較して短いというデータがあります。とくにパートタイム労働者の割合が高く、女性の短時間勤務が多いことが指摘されています。

 また、少子高齢化による労働力不足が深刻化しており、経済界や一部の政治家からは「もっと働くべきだ」という声も上がっています。経済成長率が伸び悩むなか、「労働時間の延長」が一つの処方箋として提示されている状況です。

 しかし番組では、この見方に対する反論も紹介されました。第一に、ドイツは労働時間こそ短いものの、生産性は依然として高水準にあります。単純に労働時間のみを比較して「働いていない」と結論づけるのは適切ではない、という指摘です。また、ドイツ社会はワークライフバランスを重視する文化を持ち、休暇や家庭生活を大切にする価値観が根付いているため、長時間労働が必ずしも競争力向上につながるとは限りません。

 一般に、家族の誕生日に会社を休むことは当然のこととして受け止められています。さらに、ドイツでは誰もが年間20日の法定有給休暇を取得する権利を有しており、実際にはそれ以上の休暇を取得することも珍しくありません。また、会社員は継続教育のために年間5日間の有給休暇を取得できる制度もあります。このように、ドイツ人は他国と比べると比較的恵まれた労働環境に置かれているように見えます。

 さらに議論は、経済停滞の原因が本当に労働時間にあるのかという点にも及びました。エネルギー価格の高騰、過度な官僚主義、デジタル化の遅れ、投資不足など、構造的な問題のほうが大きいのではないかという意見も提示されています。単に労働時間を延ばしても、こうした根本的課題が解決されなければ持続的成長は難しい、という見方です。

 また、労働参加率の拡大という別のアプローチも議論されました。保育制度の充実による女性のフルタイム就労支援、スペインに倣った移民政策の改善による人材確保、高齢者の再雇用促進など、「今いる人を長く働かせる」のではなく、「働ける人を増やす」戦略のほうが現実的ではないかという提案です。

 番組全体としては、「もっと長く働けば経済が自動的に回復する」という単純な図式を否定し、より複雑な経済構造と社会的価値観を踏まえた議論の必要性を強調しているように見受けられました。問題の核心は労働時間の長さではなく、生産性向上、制度改革、イノベーション投資といった質的転換にある―それが番組の示す意図であったと推測されます。

 この議論は、連邦首相フリードリヒ・メルツ氏がハレ・デッサウ商工会議所で、ドイツ人の労働倫理について再び発言したことを受けたものと考えられます。メルツ首相は、ドイツの経済活動の生産性は十分ではないと述べ、ワークライフバランスや週4日勤務では、現在享受している繁栄を将来にわたり維持することはできないと主張しました。そのため、より多く働く必要があると強調しています。

 具体例としてスイスを挙げ、同国では平均してドイツより年間約200時間多く働いていると指摘し、「遺伝的な違いがあるわけではない」と述べて労働文化の転換を促しました。

 また、病欠日数(Krankenstand)が平均14.5日/年と比較的多いことも問題視し、「本当にこれほど多くの病欠が必要なのか」を議論すべきだとしています。ドイツでは病欠に対する心理的抵抗が日本より小さく、体調不良時には比較的自然に休む文化があります。五日以内の病欠は医者からの診断書をもらう必要もありません。

写真:メルツ首相Arbeitsleistung in Deutschland: So will Friedrich Merz sie erhöhenより

 ドイツと日本の生産性を比較すると、課題の性質は大きく異なります。ドイツは年間労働時間が短い一方で、時間当たりの労働生産性はOECD内でも高水準です。そのため近年は「もっと働くべきだ」という議論が生まれ、高齢者の就労延長やパートタイム労働者の労働時間増加などが検討されています。

 一方、日本はドイツより労働時間が長いにもかかわらず、時間当たり生産性は低めです。したがって日本の課題は労働時間の不足ではなく、業務効率の改善、デジタル化の推進、組織構造の改革といった質の向上にあります。

世界の労働時間 国別ランキング・推移(OECD

各国の全就業者における平均年間実労働時間および国別順位を掲載しています。
1位はペルーの2,263時間/年、第2位はコロンビアの2,252時間/年となっています。

・単位:時間(h)/年
・就業者1人当たりの平均年間実労働時間
・就業者には、雇用者(給与所得者)および自営業者を含む全就業者が含まれます。

情報源:

2026年2月12日放映「ドイチェ・ヴェレ(DW)」「Are Germans working too little? And would more work really boost the economy? 」

*ドイチェ・ヴェレ(ドイツ語:Deutsche Welle)は、ドイツ連邦共和国の国営国際放送事業体である。ラジオ、テレビ、インターネットを通じてサービスを提供している。(Wikipediaより)

Arbeitsleistung in Deutschland: So will Friedrich Merz sie erhöhen

Are Germans working too little? And would more work really boost the economy? | To the Point – YouTube

ドイツの生産性 ドイツの生産性 | 1962-2025 データ | 2026-2028 予測

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List of countries by average annual labor hours – Wikipedia