東南アジアで進むEV競争の激化

 ベトナムの自動車市場は急速な成長期に入り、世界から注目を集めている。そのタイミングで、中国の大手メーカーである奇瑞汽車(Chery(チューリー) Automobile(オートモービル))が本格参入し、競争は一段と激しさを増している。ベトナムのコングロマリットである VinFast(ビンファスト)にとって、奇瑞汽車の参入は市場のバランスに影響を及ぼしかねない。

 奇瑞汽車は、ベトナム企業 Geleximco(ジェレキシムコ)と合弁で 8 億ドル規模の工場建設を進めており、2026 年の稼働後には年間 20 万台規模の生産能力を持つ計画だ。輸入販売に依存しない現地生産体制を整えることで、価格競争力と供給の安定性を確保し、ベトナム市場での本格展開に備えている。こうした生産基盤の整備は、同社がベトナムを東南アジア戦略の中核に据えていることを明確に示している。

 奇瑞汽車は、海外向けブランドのOMODA(オモダ)JAECOO(ジェイクー)を軸に、若者向けの小型 SUV から高級志向のモデルまで幅広いラインナップを展開する方針だ。2026年までに最大16 車種を投入するとされ、デザイン性・装備・価格のバランスを武器に、シェア拡大を図る構えである。VinFast は、国内ブランドとしての信頼性に加え、全国に広がる EV 充電インフラを武器に市場での地位を固めている。自社でバッテリー開発から車両生産、販売、アフターサービスまでを一貫して手がける垂直統合モデルを採用しており、これがコスト競争力とサービス品質の両面で強みとなっている。とくに EV 分野では主導的な立場にあり、政府の支援策も追い風となっている。

 ハノイ市内では、EV 以外の車両の乗り入れ規制が進みつつあり、EV 需要は急拡大している。こうした政策は国民の負担を増やす側面があるものの、VinFast にとっては成長を後押しする環境が整いつつある。

 現地生産を進める奇瑞汽車は、コストを抑えた低価格戦略で市場を揺さぶる可能性が高く、価格競争は一段と激しくなる見通しだ。政府のEV優遇政策が続く中では、どちらがより魅力的なEVを、技術力と普及スピードを伴って投入できるかが勝敗を左右する。また、ブランド力と信頼性も重要な争点となる。VinFast は国内ブランドとしての強みを持つ一方、奇瑞汽車はデザイン性や装備の充実度を武器に若年層の取り込みを狙っている。

 ベトナムはトヨタやホンダにとって重要な市場であり、そこに奇瑞汽車が本格参入することで、日本勢の主力カテゴリーである小型 SUV やセダンと直接競合する状況が鮮明になる。奇瑞汽車は現地生産を活かした低価格戦略を採るため、価格に敏感な若年層が流れやすく、日本車のシェアに影響が及ぶ可能性がある。さらに、ベトナム政府がEV優遇政策を強化する中、VinFast と奇瑞汽車が積極的にEV を投入する一方、日本勢はハイブリッド中心でEVのラインナップが限られている。こうしたことから、日本メーカーのEVシフトの遅れが相対的に目立つとみられる。

 奇瑞汽車の現地生産が進めば、部品サプライチェーンも中国系サプライヤーにシフトしやすくなり、日本の部品メーカーの存在感が相対的に低下するリスクがある。とくに電装・バッテリー分野は中国勢が強いため、EV化が進むほど日本の存在感が弱まると指摘されている。

 長期的には、奇瑞汽車が東南アジアで成功することで、欧州・中東・南米と同様に、日本市場にも低価格 EVの競争圧力が波及する可能性がある。奇瑞汽車は「2030 年までにベトナムでトップ3に入る」と公言しており、トヨタやヒュンダイ、キアといった既存の強豪メーカーも含め、ベトナム市場では競争が一段と激化している。VinFast が築いた地位を守り切るのか、それとも奇瑞汽車が新たな潮流を生み出すのか。その動向は日本の自動車産業にも徐々に影響を及ぼしつつある。

ベトナムの自動車市場が急成長期に入り、世界の注目が集まっている。