TSMCとRapidusがもたらす日本の半導体再構築と技術主権の回復

 日本の半導体産業は、TSMC熊本工場およびRapidus北海道工場を中心とする大規模投資を背景に、再興へ向けた重要な転換点を迎えている。かつて日本は世界の半導体産業を主導し、商業的な最先端ロジック半導体の量産技術を有していた。しかし、微細化競争の加速、産業構造の変化、国際競争の激化により、その技術基盤は徐々に失われ、最先端ロジック製造の地位を喪失するに至った。

 一方で、日本はメモリ、イメージセンサー、パワー半導体といった分野では依然として強固な競争力を保持してきた。メモリ分野ではキオクシアがNAND型フラッシュメモリで世界上位のシェアを有し、Micron Japanは広島を中心に先端DRAMの量産拠点として重要な役割を果たしている。イメージセンサー分野ではソニーセミコンダクタソリューションズが世界トップシェアを占め、日本の技術優位を象徴する存在である。さらに、パワー半導体ではルネサス エレクトロニクス、ローム、三菱電機、富士電機といった企業が車載・産業用途向けに高信頼性デバイスを供給し、世界市場で確固たる地位を築いている。

 しかし、これらの強みが存在する一方で、最先端ロジック製造に関しては国内体制が十分に整っていなかった。現在進むTSMCおよびRapidusへの大型投資は、この失われた技術基盤を国内に再構築し、製造力を強化する取り組みとして位置づけられる。今回の投資は、この空白領域を埋め、装置・材料メーカーを含むサプライチェーン全体の競争力向上に寄与するものである。

 TSMCは1987年に台湾で設立された世界最大の半導体ファウンドリ企業であり、専業ファウンドリモデルを確立した先駆者である。同社はAppleやNVIDIAなど世界的テクノロジー企業を主要顧客とし、2nm世代を含む最先端ノードの量産能力およびAI・高性能計算向けの供給力において突出した地位を築いてきた。台湾に加え、日本、米国、欧州での製造拠点拡大を進めており、日本では自動車・産業用途の安定供給を目的に熊本での工場建設を推進している。成熟ノードから高度ノードまで幅広い製造能力を提供する体制が整いつつある。

 TSMC熊本工場では、第1工場が2024年に開所し、同年内に量産を開始した。ここでは22/28nmや12/16nmといった成熟ノードが製造され、自動車や産業機器向けの安定供給を担っている。続く第2工場は建設が進行しており、2027年頃の稼働を見込み、6〜7nm世代のロジック製造を計画している。これにより、日本国内における高度な製造能力のさらなる確立が期待される。

 一方、Rapidusは2022年に日本企業八社によって設立された先端ロジック半導体の国産化を目的とする企業であり、日本の技術主権確保を目指す国家プロジェクトとして位置づけられている。参画した八社は、トヨタ自動車、NTT、ソニーグループ、NEC、ソフトバンク、デンソー、キオクシア、三菱UFJ銀行であり、自動車、通信、エレクトロニクス、金融といった日本の基幹産業を代表する企業群である。これらの企業が出資した背景には、先端ロジック半導体の安定供給が日本の産業競争力に直結するという共通認識がある。

 Rapidus北海道工場では、2nm世代の先端ロジック製造を目指したパイロットライン整備が進み、IBMやimecとの協力を通じて技術確立が進行している。2025年の試作ライン稼働を皮切りに、2027年以降の量産体制構築を目指す計画である。同社は2nm世代の先端ロジック製造を主軸に据え、IBMやimecとの技術連携を通じて世界水準の製造技術確立を進めている。

 imecはベルギーに拠点を置く世界有数の半導体研究開発機関であり、EUVリソグラフィや次世代ロジックプロセスなど最先端技術の国際共同研究を主導する存在である。こうした国際的研究基盤を取り込みつつ、北海道千歳市ではパイロットラインの建設を進めており、2025年4月の試作ライン稼働を経て、2027年以降の量産体制確立を目指している。長年失われていた先端ロジック製造能力を国内で再構築し、国際競争力を取り戻すための重要な取り組みである。

 日本の半導体政策においては、TSMCが担う成熟ノードとRapidusが目指す先端ノードという二層構造が形成されつつあり、サプライチェーン強靭化と技術主権確保を同時に進める体制が整いつつある。熊本や北海道では新たな産業集積地としての成長が進み、関連産業の誘致やインフラ整備が加速している。また、台湾依存リスクの高まりを背景に各国が製造拠点の分散を進める中で、日本は信頼性の高い製造国として再評価されつつある。

 こうした動きは、半導体工場建設を単なる設備投資にとどめず、産業構造の再編と技術主権確保に向けた国家的取り組みとして位置づけられる。今後は、人材育成、研究開発投資、国際連携の強化が一層重要となり、これらを総合的に推進する政策の継続が求められる。

先端ロジック復権への挑戦が進む