インド外交の魅力:したたかさ・しなやかさ

インド特派員 石﨑奈保子

 2025年から2026年にかけて、国際社会は多層的な不安定性に直面している。米中対立の長期化、ウクライナ紛争の継続、中東情勢の緊迫、世界的な保護主義の台頭——こうした環境は、従来の国際協調メカニズムを揺るがし、多くの国に外交の再定義を迫っている。その中で、インドはきわめて独自性の高いアプローチを展開し、国際政治の要所において存在感を高めている。

 インド外交の強み・魅力は、なんといっても「したたかさ」であり「しなやかさ」であろう。強硬でも迎合でもなく、状況を的確に読みながら自国利益を守る柔軟性と自律性である。2026年の国際情勢を展望したとき、インドはもはや単なる新興国ではなく、多極化した世界の“調整役”として確固たる地位を築きつつあるといえる。

インドは日本にとっても信頼できるパートナーとしての価値を高めている。

 インド外交の中心に据えられ続けている理念が、いわゆる「戦略的自律(strategic autonomy)」である。米中対立が深まる中でも、インドはいずれかの陣営に明確に傾くことを避け、状況に応じて政策を調整する「しなやかさ」を保っている。

 たとえば、トランプ米政権(二期目)による高関税措置や、ロシア産原油の購入に関する圧力は、インドにとって経済的・外交的負担となった。しかしインド政府は、感情的な応酬や過度な対立を避けつつも、自国の利益を損なう譲歩は行わなかった。交渉における強い姿勢と、言動面での抑制的対応を組み合わせることで、大国の圧力をいなしながら関係維持を図っていた。このような慎重かつ計算された「したたかな」対応は、インドが大国間競争の不確実性を理解し、長期的な国益を守るための「距離の取り方」を熟知していることを示す。

 近年、G20や国連のような大規模多国間枠組みは、地政学的対立の影響で実質的な成果を出しにくくなっている。その一方、テーマ別の小規模協議体(いわゆる“small tables”)が、実務的な成果を生む傾向を強めている。インドはこうした外交環境の変化に迅速に適応し、自らが調整役として機能し得る領域を積極的に広げてきた。

  • EUとの連携深化:データ基準、サプライチェーン強靭化、グリーン産業など、産業・技術面で実務協力を拡大。
  • BRICSでのバランサー役:反西側的な議論へ傾かぬよう、議長国として現実的な議題設定を主導。
  • QUADにおける実務志向:対立を煽る構図ではなく、海洋安全保障、港湾強靭化といった公共財の提供に注力。

 また、インドは、外交の場で強圧的な姿勢をとらずとも一定の信頼を得ている。その背景には、文化・社会に根ざしたソフトパワーがある。ヨガ、映画、食文化などインド由来の文化資源は世界に広く浸透しており、IT・理系分野の高度人材の活躍も世界的に評価されている。これらが、インドに対する好意的認知を底支えし、対立を避けつつ安定感をもたらす外交姿勢と相まって、「静かな影響力」として作用している。

 不透明感が増す国際環境において、「したたかさ」と「しなやかさ」を兼ね備えた外交を展開するインド姿勢は、日本にとっても信頼できるパートナーとしての価値を高めている。今後の日本企業に求められるのは、「インドを見る」段階から一歩進み、「インドとどう組むか」を具体的に考え、行動へ移すことであろう。