AI と歴史的ブレークスルーの系譜をめぐる

 AI は、私たちが情報を理解したり考えたり、新しい発想を生み出したりする“知的な活動”を幅広く支えてくれる存在です。記憶・分析・推論・生成といった処理を高速にこなせるため、私たちの生産性も大きく向上しています。こうした性質から、AI は医療、金融、行政、教育、製造、創作、物流など、特定の業界にとどまらず社会のあらゆる領域に応用できる汎用性を備えています。

 これは電気やインターネットと同じく、社会全体に広く浸透する基盤技術としての性質を示しています。また、文章や画像、音声、プログラム(ソースコード)、企画案などを生成する能力を持ち、従来の IT 技術にはなかった「ゼロから新たな価値を生み出す力」を備えている点も重要です。

 人類の歴史を振り返ると、AI と同じように社会の前提そのものを大きく変えてきた技術的ブレークスルーがいくつも存在します。これらは単なる利便性の向上ではなく、人間の行動様式や経済構造、文化、価値観にまで影響を与えてきた基盤技術といえるものです。最初の大きな転換点は、約 100 万年前に始まった火の利用だと考えられます。火は調理や暖房を可能にし、人類の身体能力や生活圏を根本から拡張しました。続いて、車輪や石器・金属器といった道具の発明は、移動、生産、農耕、戦争など社会のあらゆる領域に変化をもたらし、物理世界のインフラを形づくる基盤技術となりました。

 中世に入ると、ヨハネス・グーテンベルクによる活版印刷が知識の複製と流通を劇的に加速させました。印刷技術は情報の民主化を初めて実現した基盤技術であり、その系譜はコンピュータやインターネットを経て、今日の AI が担う「知の拡張」へとつながっています。18 世紀後半には、ジェームズ・ワットによる蒸気機関の改良が進み、人の力に頼っていた作業が機械で行えるようになりました。これを契機に始まった産業革命は、工場制と大量生産という新しい経済モデルを生み出し、社会構造を大きく変えていきました。

 19 世紀末から 20 世紀にかけては、トーマス・エジソンらによって電気が普及し、照明、通信、工業、家庭生活のすべてが再編されました。電気は社会全体に浸透する典型的な汎用技術(基盤技術)として、後のコンピュータやインターネットの基盤となりました。20 世紀後半には、アラン・チューリングの理論やジョン・フォン・ノイマンのアーキテクチャを基礎に計算機が発展し、ネットワーク技術と結びついて情報社会が形成されました。これらはデジタル世界の OS をつくり、現代の経済と文化の骨格を形づけました。

 そして現在、AI はこれらの歴史的技術と同じ系譜に位置づけられます。AI は、印刷技術、蒸気機関、電気、コンピュータ、インターネットといった歴史上の大きな技術的転換点と同列に語られるべき存在であり、むしろ人類史上もっとも広範囲に影響を及ぼす可能性を秘めたブレークスルーだといえます。

AIは、印刷技術・蒸気機関・電気・コンピュータ・インターネットへと続く文明進化の流れを受け継ぐ基盤技術だ。