巨大国家インドとは何か

 インドは2030年ごろに世界第3位の経済大国になると予測されています。これにより、2030年の名目GDPはアメリカ、中国、インドが上位を占め、その後に日本とドイツが続くと見込まれています。インドの最大の強みは、圧倒的な若さです。年齢の中央値は約30歳で、アメリカが約40歳、日本が約50歳、中国が40歳前後であることを踏まえると、インドがいかに若い国かがよく分かります。この若さは豊富な労働力と拡大する消費市場を生み出し、経済成長の大きな原動力となっています。現在の人口は約14億6,000万人に達し、世界最大の人口を有しています。

 インド社会を理解するうえで欠かせないのがカースト制度です。カーストの下位には、地域や職業、血縁によって細かく分かれたサブカーストが存在し、これらが社会に深く根づいています。法的には差別が禁止されているものの、教育や就職、結婚などにおいて依然として影響が残っています。

 製造業では、工場が地方に立地することが多いため、地域社会の価値観が働き方に影響する場面があります。カーストが職業と結びついていた歴史的背景から、特定の仕事を特定の層が担うという意識が残り、誰をどの工程や役割に割り当てるかといった人材配置にも影響が及ぶことがあります。その結果、人材の流動性が低くなる場合も見られます。また、教育機会や家庭環境の格差によって、製造業に必要な技能を習得できる層が偏りやすいという課題もあります。

 一方、IT産業では都市部を中心に実力主義が浸透し、カーストの影響は相対的に弱まっています。英語教育の普及や外資系企業の文化の広がりにより、採用や昇進ではスキルや成果が重視され、カーストに縛られないキャリア形成が可能になっています。

 インドがIT大国となった背景には、質の高い理工系教育と英語力があります。インド工科大学(IIT)をはじめとする教育機関が優秀な人材を輩出し、英語を公用語として使う環境が欧米企業との連携を容易にしました。

 近年は国家のデジタル化戦略「デジタル・インディア(Digital India)」政策により、AIやクラウドなど高度分野へと発展し、外資企業の研究開発拠点も増えています。その核となるのがUPI(Unified Payments Interface)です。UPIは、インド政府と中央銀行が主導して整備した全国共通のデジタル決済インフラで、個人間の送金だけでなく、店舗や企業への支払いも含め、自分の銀行口座から相手の口座へ直接お金を送れる仕組みです。スマートフォンがあれば数秒で送金や支払いができ、QRコードを使った決済も簡単に行えます。手数料がほとんどかからず、すべての銀行が同じ仕組みを利用できるため、国民にとって使いやすい決済手段として急速に普及しました。

 政治的な安定と改革の進展もインドの強みです。税制の統一や行政手続きの効率化、投資規制の緩和が進み、企業が活動しやすい環境が整いつつあります。世界が中国依存を見直す中で、民主主義国家でありインド洋の要衝に位置するインドは、地政学的にも重要性を高めています。

 日本にとってインドは、単なる新興市場ではなく戦略的なパートナーへと変わりつつあります。自由で開かれたインド太平洋構想の中心として位置づけられ、経済安全保障や半導体、重要鉱物、インフラ、防衛など多くの分野で協力が進んでいます。

 インドは若さと成長力を備えつつ、多くの課題にも向き合う多面的な国です。そうした多様な側面こそがインドの魅力であり、世界が目を向ける理由でもあります。日本にとっても、これからの時代をともに歩んでいく心強いパートナーになることでしょう。

デジタル・インディアが先端分野を加速。