
ベトナム特派員 高橋 正志
ドイモイが開いた投資立国ベトナム
社会主義共和国国家であるベトナムの経済発展の礎となったのは、1986年にスタートさせた「刷新」を意味するドイモイ政策だ。市場経済を導入し、その一環として外国資本の誘致を積極的に進めた。日本も大手製造業を中心に海外生産拠点としてベトナムに進出し、これが1994年頃から始まる「第1次ベトナム投資ブーム」となった。
税制の優遇、安価な労働力、手先の器用さ、真面目で親日な国民性など、ベトナムが選ばれた理由は多いが、地政学的なメリットも大きい。
ベトナムは東南アジアのインドシナ半島東部にあり、北は中国、西はラオス・カンボジアと国境を接している。国土はS字型を描いて南北に長く、面積は日本の約9割となる34万6410km2だ。東は南シナ海に面しており、東部の海岸線は約3260kmとかなり長い。
つまり、東南アジアの比較的中心部で、日本と距離が近く、中国から容易に物資が運べて、東部からは海路で輸送できる。この立地のため、ベトナムに進出している国は日本の他に韓国、台湾、香港、中国、シンガポールなどで、欧米企業は多くない。
その後は、ベトナムがWTO(世界貿易機関)に加盟した2007年前後から第2次ブーム、インフラが整備され投資環境が向上した2010年代ちゃい半から3次ブームが起こったと言われる。この間、製造業の拠点は北部から南部へと広がり、大手企業だけでなく中小企業の進出も増え、南部を中心にサービス業の進出も始まった。現在は生産拠点の他に、旺盛なベトナム市場を狙ったベトナム人向けの商品やサービスを提供する外資系企業も多い。
中国不信や米中摩擦が追い風に
2000年代半ばから始まった「チャイナプラスワン」も経済成長の追い風となった。中国の政治の不安定さ、賃金の上昇、SARSなどの影響もあって、中国一極集中を嫌った海外の製造業が、第2、第3の生産地を探したのだ。その結果、中国に隣接したニアショアのような立地も魅力となり、多くの企業がベトナムに進出した。これは世界的な動きで、ベトナムは次第に国際的なサプライチェーンの一角を占めるようになっていく。
そして、米国の第1次トランプ政権(2017~2021年)における米中貿易戦争が「漁夫の利」となる。米国が中国に高関税を課したため、中国からベトナムに生産拠点を移して、同地から輸出する企業が増えたのだ。外資系企業だけでなく中国企業の進出も加速。中には中国工場を閉鎖してベトナムに生産移管する企業も現れた。
では、現在はどうか。2025年からの第2次トランプ政権でも中国をはじめとする各国に高関税を課したが、今度はベトナムも標的になった。対米貿易黒字の削減や、中国からの迂回輸出防止のために、米国への輸出品に最大46%の高関税を掛けた。しかし、米国はベトナムにとって最大の貿易相手国だ。米国からの関税の引下げや、米国製品の積極的な購入などを交渉材料とし、税率を一律20%とさせた。ベトナムは本当に外交が巧みで、この結果は直近のデータにも表れている。
2025年1~11月のベトナムの輸出額は前年同期比16.1%増の4301億3800万USDと絶好調で、米国への輸出額も1386億USDと過去最高を記録したのだ。ただ、8~9月以降は関税の影響で米国への輸出額が減っており、来年は楽観視できない。
輸出+FDI経済の光と影
このようにベトナムの経済成長のドライブは、世界の生産工場としての輸出の増大と、それを支える海外直接投資(FDI)だ。2025年1~11月のFDI認可額(推定値)は前年同期比7.4%増の336億9000万USD、実行額(同)は8.9%増の236億USDだった。これは5年ぶりの過去最高水準であり、とくに加工製造業へのFDI投資額は18.5%と高く、登録FDI資本金総額の約55%を占めている。
やはり、「ベトナムで作って海外に売る」というビジネススタイルが、外資系企業とベトナムとのウィンウィンの関係を築いているようだ。ベトナム政府は2026年のGDP成長率目標を10%に掲げており、国際機関でもベトナムのさらなる成長を見込むレポートが目立つ。
ただ、安心はできない。言ってみれば、輸出と外資偏重の「外国頼み」なのだ。国際情勢や大国間の影響を受けやすいし、FDIにしても他国が有望となれば企業は離れていくだろう。また、原材料や部品の多くを中国からの輸入に依存していること、近年の賃金増による生産コストの上昇、不足するエネルギー問題やインフラ整備などの課題も多い。
ベトナムは「全方位外交」としてほとんどの国と友好的な関係を築いており、CPTPP(環太平洋)、RCEP(東アジア)、EVFTA(欧州)など、多くの多国間自由貿易協定(FTA)にも参加している。それでも不安の種は尽きないのだ。



