近年、日本国内では逆輸入車の流通が拡大し、これまで国内に存在しなかったモデルが加わったことで、消費者の選択肢が広がりつつある。2024年には新車販売の約2%にあたる9万3,587台が逆輸入車となり、前年比48%増という過去最高の水準に達した。中でもホンダはインドや中国、タイで生産したSUVやセダンを日本に導入し、低価格帯のWR-Vや再投入されたオデッセイが好調で、販売台数は約4万5,107台に達した。
スズキもインド生産の小型SUV「フロンクス」を逆輸入し、 5,819台を売り上げて存在感を示している。さらに、トヨタは米国工場で生産する大型SUVに加えてカムリの逆輸入を検討し、日産は南米やタイで生産するSUV「キックス」を国内に投入した。三菱もタイ生産のピックアップ「トライトン」を逆輸入しており、こうした各社の動きが逆輸入車市場全体の拡大を後押ししている。その結果、市場は過去最高の規模へと成長している。
逆輸入車の流通によるパラダイム転換は、メーカーにとって海外工場の稼働率を維持しながらコストを抑える国際戦略の一環として、市場拡大を図る手段となっている。日産が逆輸入車戦略を本格的に検討し始めたことがニュースとなり、注目を集めている。
エスピノーサ社長は、米国で生産した車を日本に輸入する逆輸入について「ビジネスとして成立すれば選択肢となる」と述べ、前向きな姿勢を示した。こうした日産の動きは、日米間の関税交渉の流れの中で浮上したものである。一方で、トヨタも米国生産車を日本へ輸出する方針を示しており、この業界全体の動きが日産の判断を後押しする要因ともなっている。
日産は、米国で販売されているSUV「ムラーノ」を逆輸入する案が最有力とされている。2025年モデルは10年ぶりのフルモデルチェンジとなり、デザインの刷新や高級感の向上が図られた。米国での販売不振により工場の稼働率が低下していることもあり、日本市場への投入はその改善策として期待されている。また、日産のフラッグシップSUVである「パトロール」についても、2026年に正規ディーラー経由で逆輸入販売が始まる可能性が報じられている。これまで並行輸入に頼っていたモデルが正規ルートで購入できるようになれば、整備性や保証面での安心感が大きく向上するだろう。
逆輸入車の増加には経済的な要因も大きく影響している。米国のインフレにより、日本メーカーは現地価格を抑えるために利益を削らざるを得なくなり、さらに為替変動は逆輸入車の価格に直結する。円高であれば価格を抑えられる一方、円安では輸入コストが増加するため、販売戦略に大きな影響を与える。
トランプ政権下で導入された自動車関税は日本メーカーに大きな負担をもたらし、現地生産の拡大と逆輸入の流れを後押しした。国内市場が少子高齢化や都市部の車離れによって縮小する中で、逆輸入車は新たな刺激策として存在感を高めている。
正規ディーラーにとっても、逆輸入車の取り扱いは大きなメリットを生み出す。販売機会が広がるだけでなく、希少性や特別感によってブランド価値が高まり、アフターサービスによる収益拡大も期待できる。一方で、価格変動リスクや部品供給の不安定さといった課題も抱えており、取り扱いには慎重な姿勢が求められる。
逆輸入車は単なる“海外仕様の日本車”ではなく、縮小する国内市場に新たな風を吹き込む存在になりつつある。その動きがどこまで広がるのか、今後の展開を見守りたい。


