タイ・カンボジア国境紛争が引き起こした物流網の遮断 日系企業への影響は?

タイ特派員 齋藤正行

 今年5月の銃撃戦を機に、7月に本格的な軍事衝突が発生したタイ・カンボジア国境紛争。米トランプ大統領、マレーシアのアンワル・イブラヒム首相の立ち合いによる和平宣言が実現した10月以降、鎮静・収束への期待が高まったが、12月に重火器を使用した戦闘が再発した。タイは空軍のF-16戦闘機を出動させてのカンボジアの軍事拠点の空爆に踏み切っており、早急な停戦の可能性は低いと大方は見ている。

タイ・カンボジア国境で発生した軍事衝突

 世界各地の戦争・紛争の解決に積極的なトランプ大統領はタイ、カンボジア、仲介役のマレーシアに対し、停戦実現を評価して3国一律19%という関税率を設定した。タイには当初36%と提示されており、停戦に合意したことによる恩恵は大きかった。ただ、10月の停戦の署名式は和平「合意」ではなく、より拘束力が弱い和平「宣言」にとどまった。そのため、宣言の後も流動的な状況は続くとの見方は当初より少なくなかった。

国境閉鎖で物流が混乱

 日系を含むタイ国内の多くのメーカーが、(主に労働集約型で作られる)製品や材料の輸出入でカンボジア国境を利用していた。原材料をタイからカンボジアに送って加工して半製品を再びタイに戻すといった、両国にまたがるサプライチェーンを持つメーカーが多い。

 その国境が紛争で閉鎖されたことにより、物流ルートをベトナムやラオス経由もしくは空路に切り替えざるを得なくなり、納期はこれまでの半日程度だったものが最長7日に延びていると伝えられる。カンボジア国内の輸送コストは従来の5〜10倍に膨らんでいるという。タイから最終目的地への空輸も、大量生産製品の輸送コストに見合わない。

 国内の製造業を取りまとめるタイ工業連盟(FTI)は、国境再開およびタイ東部の海上ルートの新規開拓などを求めたが、タイ政府は当初より「早期の再開はない」という発言を繰り返してきた。関税率に関しては11月の時点で、カンボジアによるタイ領内への地雷埋設を巡る問題を理由に、米国から協定交渉の「一時停止」を言い渡されており、タイにとって停戦を維持する経済的な意義は薄れていた。

タイ政府は「国内への拠点シフト」を提案

 今回の国境問題は、タイ経済面では「投資誘致」につながった。タイ投資委員会(BOI)は8月時点ですでに、国境閉鎖の影響を受けた企業を対象とする税減免の特例措置を承認。政情不安のカンボジアから投資環境が整ったタイへの拠点シフトを提案している。

 ナリット・タートサティーラサックBOI事務局長は10月、両国に拠点を構える企業に対し、タイからカンボジアへのシフトは「技術水準や人材の質を落とすことになり非現実的」と主張。カンボジアからタイへのシフトはより可能性があるとし、「課題となる人材確保でタイ政府が支援していく」と提案した。

 ミネベアやデンソーといった具体的な日系メーカーの社名をあげ、「インフラが整備されて人材が豊富なタイへの移転が検討されると見込んでいる」と期待感を示した。

 12月に入っての軍事衝突の再発についてタイのメディアは「数十年ぶりの緊張状態」と伝えており、国境の早期再開の道はほとんど閉ざされたといえる。先のナリットBOI事務局長は、「外国人投資家は事業モデルを変えざるを得ない」と警告している。