労働基準法が約40年ぶりの大改正

 労働基準法が約40年ぶりに改正されます。背景には、長時間労働の是正や働き方の多様化への対応があります。近年、日本ではテレワーク、副業・兼業、さらにはフリーランスといった新しい働き方が急速に広がっています。

 総務省の就業構造基本調査によれば、正社員の約27.6%が週1回以上テレワークを実施していることが明らかになりました。とくに大都市圏や情報通信業などの分野でテレワークの利用が進んでおり、働き方の柔軟化が広がっています。また、副業を行う人の数は過去10年間で約4割増加し、就業者全体に占める副業者の割合も約1.4ポイント上昇しました。副業は40~64歳層を中心に広がっていますが、近年では再雇用制度や年金制度の影響、さらに健康寿命の延びによって、65歳以上の層でも増加傾向が見られます。

 今回の改正案は、労働者の健康を守り、生活リズムを安定させることを目的として、いくつかの新しい制度を取り入れるものです。具体的には、14日以上の連続勤務を禁止する上限規制が設けられ、法定休日を事前に特定する義務が課されます。また、勤務間インターバル制度が義務化され、労働者は11時間以上の休息時間を確保できるようになります。

 有給休暇の賃金算定方式が従来の複数方式から「通常賃金方式」に統一されることで、平均賃金方式などを採用した際に「有給を取ると給料が減る」といった労使間の不満や認識のずれが解消され、賃金計算をめぐるトラブル防止につながると期待されています。さらに、副業や兼業を行う労働者については、複数の勤務先で働いた時間を合算して管理する仕組みが導入されます。これにより、従来のように勤務先ごとに労働時間を管理していた場合に見過ごされがちだった「過労」や「割増賃金の未払い」といった問題を防ぐことが可能になります。

 具体的には、複数勤務先での労働時間を合計し、法定労働時間を超えた場合には時間外労働として割増賃金を支払う必要があり、さらに36協定などの上限規制も合算時間で適用されます。こうした仕組みによって、働き方の自由化を進めつつ、労働者の健康確保と公正な賃金支払いを両立させることが期待されます。一方、企業にとっては、労働時間の把握・調整、残業代の支払い、上限規制の遵守といった負担が増えることになります。

 「つながらない権利」も新たに認められ、勤務時間外の業務連絡を制限するガイドラインが策定されます。これにより、休日や夜間に上司や同僚からのメールや電話に拘束される「隠れ労働」が防止され、労働者の心身の健康維持につながることが期待されます。勤務間インターバル制度の導入率は中小企業では1割未満にとどまっており、義務化されれば大きな負担となると見込まれます。同制度は、前日の勤務終了から翌日の勤務開始までに一定の休息時間(例:11時間以上)を確保する仕組みです。

 労働局の監督指導によれば、中小事業場の約4割で違法な時間外労働が確認されており、中には月200時間を超える事例も報告されています。さらに、従業員10人未満の事業場に認められていた「週44時間労働の特例」も廃止され、すべての事業場で週40時間に統一される方向です。

 さらに「名ばかり管理職」を放置した場合、残業代請求が月80時間の残業で2年間続けば約300万円規模に発展する可能性があり、労務管理体制を整備しなければ深刻な経営リスクに直結します。中小企業への適用は2027年以降に猶予期間を設けて施行される予定であり、詳細は政令で定められる見込みです。企業は施行までに就業規則の改定や勤怠管理システムの整備、従業員への周知を進める必要があります。

 今回の改正は企業に一定の負担を強いるものの、労働者の健康確保と持続可能な働き方を実現するための重要な一歩となります。

労働基準法が約40年ぶりに改正される