地政学的リスクを逆手に取る産業政策急拡大

インド特派員 石﨑奈保子

 米中対立やサプライチェーン分断、欧州の環境規制強化など、世界的な地政学的緊張が高まる中、企業は「中国依存リスク」低減を急いでいる。こうした状況下で、人口世界一を誇るインドは、巨大な消費市場と豊富な労働力を武器に「中国の代替生産拠点」として注目され、政府もこれを国家戦略に位置付けている。とくに米国や日本企業にとって、インドは「リスク分散」と「成長市場」という二重の魅力を備えた国である。電子部品や自動車、EV関連分野では、PLI(生産連動型優遇策)を活用したMake in India(インド国内での生産)体制の構築を促進し、グローバル企業に対して「中国プラスワン」戦略の最適地としての地位を確立しつつある。

 さらに、インドは地理的優位性を活かし、中東やアフリカ市場への輸出拠点としての役割を強調している。鉄鋼、自動車、医薬品などの分野で競争力を高めるため、自由貿易協定(FTA)の締結や地域経済連携への参加を推進している。これにより、インド国内で生産された製品を周辺国へ効率的に輸出できる体制が整いつつあり、企業にとっては「インドを基点とした広域市場攻略」という新たなビジネスモデルが現実味を帯びている。

(出典:Press Information Bureau)

 製造業誘致を後押しするため、インド政府は「Gati Shakti」(国家インフラ計画)を通じて港湾、道路、専用貨物鉄道などの物流インフラ整備を加速している。これにより、輸送コストの削減とサプライチェーンの効率化が進み、外資企業にとってインドでの製造・輸出がより現実的な選択肢となる。また、デジタルプラットフォームを活用した通関手続きの簡素化や、貨物追跡システムの導入により、透明性とスピードが向上し、企業のリスク管理にも寄与している。

 日本企業がインド市場で成功を収めるためには、「現地生産」「人材育成」「技術協力」を組み合わせた三位一体の戦略が不可欠である。とくに、EVや高付加価値部品の現地化は必須であり、これに加えてインド政府と連携した技能教育や日本語教育の推進は、競争優位性を高める重要な要素となる。加えて、中国依存リスクを回避しつつ、インド市場の成長を取り込むことで、長期的なサプライチェーンの安定化が可能となり、企業は持続的な成長基盤を構築できる。

 インド政府と連携した技能教育の具体例として、2025年10月にトヨタ自動車のインド法人トヨタ・キルロスカ・モーター(TKM)は、マハーラーシュトラ州政府と工業訓練所(ITI)の技能育成強化に関する覚書を締結し、2030年までに州内36地区45カ所を支援する計画を発表した。既存のカルナータカ州での技能育成プログラムを基盤に、教員育成や工場研修、産業ニーズに沿った教材提供を行い、倫理教育や5S・安全プロトコルの導入も行う予定である。

(出典:Press Information Bureau)