職場における熱中症対策が法的に義務化
2025年6月1日に施行された改正労働安全衛生法により、工場をはじめとする職場では熱中症対策が法的義務となりました。これに違反した場合、企業には行政処分や刑事罰が科される可能性があり、違反の程度が重大であると認定されれば、工場の一部または全体の作業・設備の使用が停止される措置も取られます。この責任は、企業の代表者や安全衛生責任者に限らず、法人としての企業にも及びます。
これに伴い、企業は熱中症の早期発見体制(報告ルートの明確化)や悪化防止措置(冷却・離脱・医療機関への搬送など)、さらに作業者への教育・周知体制の整備が義務づけられました。
背景には、近年日本において「異常気象」が日常化している事態があります。例えば2025年7月、猛暑日が過去最多を記録し、北海道帯広市では観測史上初めて40℃に達する可能性が報じられました。一方、山形県や能登半島では短時間に大量の雨が降り、川の氾濫や土砂崩れといった災害が発生しています。2024年の世界平均気温は産業革命前より1.54度上昇し、過去最高となる可能性が極めて高いとされています。
こうした気象変動は「まれな現象」ではなく、「新たな日常」として捉えるべきかもしれません。私たち一人ひとりが防災意識を高め、地球環境の変化に対する関心を持つことが、今後さらに重要になります。
異常気象が頻発するようになったのは1990年代以降とされており、猛暑日や豪雨などの極端な気象現象が顕著に増加し始めました。気象庁も統計的にこの傾向を確認しており、2007年には「猛暑日(最高気温35℃以上)」という予報用語が新たに加えられました。それ以前は、こうした高温は「異常な暑さ」として扱われていたのです。
もっとも、異常気象そのものは過去にも存在していました。例えば1875年には猛暑日が観測されており、江戸時代にも近年並みの猛暑年があったことが研究によって明らかになっています。1853年の江戸では7月の平均気温が29℃を超えていたという記録も残されています。
つまり、異常気象は歴史的に見れば新しい現象ではないものの、現在はその頻度と強度が著しく増しています。その主な要因は、自然の気候変動(エルニーニョ、ラニーニャ、偏西風の蛇行、北極振動など)と、人間活動に起因する地球温暖化の2つに大別されます。
自然の変動は周期的に生じて特定地域に極端な気象をもたらしますが、近年の異常気象の増加は温暖化の影響が大きいと考えられています。温暖化により大気中の水蒸気量が増え、豪雨や台風が激しさを増すほか、猛暑日も増加しています。
気象庁の統計によると、猛暑日の年間日数は過去100年で約4.6倍に増え、1時間に50mm以上の短時間強雨も約1.4倍に増加しています。また、温暖化の進行により、以前は「10年に1度」のレベルだった極端な高温や豪雨が、数年に1度という頻度で起こる可能性があると予測されています。
2024年における日本国内の職場での熱中症による死傷者数は速報値で1,195人。そのうち製造業での発生は227件で、全体の約19%を占めています。死亡者数は全業種で30人に達し、製造業では6人が亡くなっています。とくに発生が多かったのは7月(561人)と8月(408人)で、午後3時台が最も多く、次いで午前9時以前の時間帯にも多く見られました。
工場では高温多湿な環境や不十分な空調設備、重作業による体温上昇が重なり、熱中症のリスクが高くなります。厚生労働省は暑さ指数(WBGT)の把握と、労働衛生教育の徹底を強く求めています。
個人の対策としては、水分と塩分のこまめな補給、空調服や冷却グッズの活用、日々の体調管理が重要です。とりわけ高齢者や持病のある従業員には、より慎重かつ丁寧な対応が必要になります。
暑さが続きますが、どうぞ無理せず、安全にお過ごしください。