
ベトナム特派員 高橋 正志
ベトナムの空の玄関口と言えば、北は首都ハノイにあるノイバイ国際空港、南は最大の経済都市であるホーチミン市のタンソンニャット国際空港。そして今、南部に新しい国際空港が建設中であり、来年6月に開業予定である。場所はベトナム東南部にあるドンナイ省で、ホーチミン市の中心部から約40km東に位置する「ロンタイン国際空港」だ。今年12月から試験運用を行い、2026年6月に商業運用を開始する。
この建設プロジェクトは第1期から第3期に分かれ、第1期で年間2500万人、第2期で年間5000万人、第3期で年間1億人以上の旅客に対応できる設備に拡張する。上記のノイバイ国際空港の年間旅客処理能力が年間3000万人、タンソンニャット国際空港が5000万人というから、どれほど大規模な国家事業かわかる。
ロンタイン国際空港建設の理由は、ベトナム南部への航空需要増に対する、タンソンニャット国際空港の地理的な拡張の限界だ。そのため、今年9月にはタンソンニャット国際空港からロンタイン国際空港への国際線の移管案が発表されており、2026年から段階的に進めて、2030年には全ての国際線をロンタイン国際空港に集約する計画だ。
2026年10月までは主に欧州、米州、オセアニアへの長距離路線、2026年10月~2027年3月は欧州、米州、オセアニア、アフリカ、中東、南アジア、中央アジアへの全路線、2027年3月~10月は東北アジアへの全路線などが移管スケジュールである。そして、タンソンニャット国際空港は、国内航空会社が運航する1000km未満の一部の短距離路線とチャーター便のみの国際線を扱うようになる。
初期の計画案ではあるが、ベトナムがこの空港を東南アジア屈指のハブ航空とする気概が伝わってくる。ここまでは経済発展が進む新興国の夢のビッグプロジェクトだ。しかし、失望と不安を感じるのは、ホーチミン市に11年住む私だけではないはずだ。まず、両空港の立地の差だ。タンソンニャット国際空港へはホーチミン市中心部からタクシーで約30分と非常に近く、私の深夜の最短記録は20分だった。しかし、Google Mapで測るとロンタイン国際空港までは1時間半。田舎道を長時間走るのは気が滅入るし、利用者が増えれば渋滞も起こる。
加えて、将来的な国際線と国内線の乗り継ぎを想定して両空港の移動時間を調べると、約2時間と出た。入国審査や荷物の受け取りなど各種の手続きを含めて、一体何時間を見れば移動できるのか。
現在、あるいは今後、ロンタイン国際空港にアクセスする道路建設は進む予定で、今年から来年中に完成予定の案件が多い。しかし、車でしか移動手段がないロンタイン国政空港へのインフラは不安しかない。最大の心配事はロンタイン国際空港の施設・設備とユーザビリティだ。その例を今年4月に開業したタンソンニャット国際空港の第3ターミナルで説明したい。
同空港では国内線用の第1ターミナルと国際線用の第2ターミナルがあったが、旅客の年間収容能力を大幅に超えていたため、国内線の約80%を収容すべく第3ターミナルが新設された。しかし、開業後すぐの5月には大雨の影響で天井で「雨漏り」が発生してフロアが水浸しに。しかも7日と24日の2回で、SNSで動画が拡散されて話題となった。日本人には信じられないだろう。また、利用者からは不満の声が相次いだ。複雑な案内表示で間違った場所に誘導された、第1・第2ターミナルからの移動が不便、タクシーなどの乗車位置がわかりにくい、到着フロアと乗車場所が遠いなどで、係員に乱暴に扱われてスーツケースが壊れるなどの被害もあった。 もう一つ挙げれば、空港職員や空港スタッフのオペレーションの不手際や遅延だ。彼らはトレーニングを受けるのだろうが、果たして新空港で滞りなく業務を回せるのだろうか。
第3ターミナルで起こった様々なトラブルは、ロンタイン国際空港への大きな糧になるはずだ。改善への良いタイミングだったとも言える。また、国内線と違って国際線の運航は各国と連携するため、そもそもミスが許されないという大前提もある。それでも私が期待してしまうのはこの国特有の「スケジュール遅れ」だ。昨年12月に日本のODAで開業したホーチミンメトロ1号線は、当初は2015年の完成予定。コロナの期間があるにせよ約10年の遅れとなった。
こうした例は「ベトナムあるある」で、大規模な工事や施工が予定通り進むことは基本的に稀だ。2026年は5年に一度の党大会が開催される特別な年で、予定通りの完成に注力するだろうけれども、ロンタイン国際空港の開業がずれ込んで、タンソンニャット「国際空港」を少しでも長く使い続けたい。



