
ドイツ特派員 畠山佳奈子
ドイツにとって自動車産業は基幹産業ですが、2025年11月現在、その労働市場は非常に厳しい状況にあります。クリスマス前に暗い話題をお伝えするのは心苦しいものの、現実は決して楽観視できません。私が住むミュンヘンはBMW本社を擁する都市であり、その影響を日々身近に感じています。
今回は、このテーマに関する最近のドイツのニュースをご紹介します。
サプライヤーへの深刻な打撃
自動車業界では、過去1年間でドイツ国内の雇用が 48,700人減少しました。とくにサプライヤー企業への影響が大きく、この分野の縮小が全体の雇用減少を加速させました。その結果、業界の従業員数は 721,400人 と、2011年以来の最低水準に落ち込んでいます。それでも、約934,200人を雇用する機械製造業に次ぐ第2位の産業分野であり続けています。
連邦統計局によれば、9月末時点のドイツ自動車産業の総従業員数は前年比 6.3%減。20万人以上の従業員を抱える主要産業の中でも、これほどの減少は他に見られません。比較として、製造業全体の従業員数は 543万人 と、前年比 120,300人(2.2%)減。ハンブルク商業銀行のエコノミスト、サイラス・デ・ラ・ルビア氏は「製造業の長引く景気後退が雇用に明確な影響を与えている」と指摘しています。

メーカーよりもサプライヤーの方が大きな影響を受けています。景気悪化時にはメーカーがコスト圧力をサプライヤーに転嫁するため、部品メーカーでは二桁の減少率が見られました。
- 自動車・エンジンメーカー:446,800人(3.8%減)
- 車体・トレーラーメーカー:39,200人(4.0%減)
- 部品・付属品メーカー:235,400人(11.1%減)
※タイヤ製造・再生など、自動車産業に関連するその他の下請けは含まれていません。

海外移転の加速:コスト高と人材不足が背景
金属製造・加工業は5.4%減、金属製品製造は2.5%減と大きく落ち込みました。電子機器やプラスチック産業など主要製造業も同様に縮小傾向です。機械製造業も2.2%減と後退。一方で、食品産業は唯一1.8%増と成長を維持しています。Ifo研究所によれば、自動車業界の景況感には改善の兆しがあるものの、全体的な先行きは依然として不透明です。
企業はコスト上昇と専門人材不足を理由に、数万の雇用を海外へ移転しています。ドイツ連邦統計局によると、2021〜2023年の間に従業員50人以上の 1,300社 が企業機能を国外へ移転し、71,100人の雇用が国内で消失 しました。(これは、2023年にドイツに拠点を置く同規模の企業の2.2%に相当します )。一方で、新たに創出された雇用は 20,300人 にとどまり、約50,800人の純減 となっています。
移転理由は以下の通り:
- 人件費削減(74%)
- その他のコストメリット(59%)
- 国内での人材不足(38%)
移転先の多くはEU域内ですが、EU外への移転も増加しています。
ミュンヘンからポーランドへ生産移転
フォルクスワーゲングループ傘下の商用車大手MANは、生産の一部をミュンヘンからポーランド・クラクフへ移転する計画を進めています。
- 2028年までに約9億3500万ユーロの収益改善
- 約1億6000万ユーロの人件費削減
- ミュンヘン、ザルツギッター、ニュルンベルクで計2,300人の削減
これにより、MAN の営業利益率は2028年までに8%に上昇する見通しです。報告書によると、この措置を講じなければ、この老舗企業は赤字に陥る危険性があるとのことです。その見返りとして、同社はミュンヘンに7億ユーロ、ザルツギッターに2,500万ユーロを投資し、「事業上の理由による解雇は行わない」としていますが、中国の新興EVメーカーの台頭により競争環境は厳しさを増しています。
MANの最高財務責任者インカ・コルヨネン氏は10月末の決算発表で「中期的にも市場の大幅な回復は見込めない」と述べ、「回復力強化への取り組みを継続する」と強調しました。ライバルのダイムラー・トラックも同様の理由から、主にドイツで5,000人の削減を発表しています。

ドイツ自動車産業は、EV化の進展、中国OEMの攻勢、コスト高、人材不足、地政学リスクといった複合要因により、歴史的な構造転換の渦中にあります。雇用は2011年以来の最低水準に落ち込み、メーカー・サプライヤー・労働市場のすべてが揺れ動いています。この状況はドイツ経済全体にも影響しており、改善には時間を要すると見られています。
情報源:
Arbeitsmarkt: Zahl der Beschäftigten in der Autoindustrie sinkt weiter
Rund 50.000 Mitarbeiter weniger: Deutsche Autoindustrie erlebt größten Stellenabbau seit 2011
Wirtschaftskrise: Zehntausende Jobs in der deutschen Autoindustrie sind weggebrochen | DIE ZEIT
Beschäftigung in der Autobranche fällt auf Tiefstand seit 2011 | tagesschau.de

