金属プレス加工技術展 2025 みてある記

次世代のモノづくりにしなやかに対応する金属プレス加工 

 一般社団法人日本金属プレス工業協会及び一般社団法人日本金型工業会が主催する3つの展示会(金属プレス加工技術展/2025INTERMOLD2025/金型展2025)が4月16日から18日までの3日間、東京ビッグサイトで開催された。出展企業数は525社・団体となり、本会からは会員企業12社が出展した。会期中の来場者は41,461名だった(写真1)。

写真1 525社・団体が出展し、会期中の来場者数は41,461名を記録した

 コロナを乗り越えて数年が経過し、製造業関連の展示会の開催規模もようやく以前のレベルに戻りつつある。毎回盛況である同展示会だが、今回は日本AM協会主催の「AM EXPO東京」も同時開催され、試作研究開発から量産までを検討する来場者で賑わった。

次世代のモノづくりに対応するため、技術力と提案力を強みに

 金属プレス加工は、高精度かつ高効率な量産技術として、自動車をはじめ電機、電子、産業機械、建築、医療分野などに幅広く部品を供給してきた。しかし近年、電気自動車の量産が本格化し、製造工程の簡略化と製造コストの削減が期待される「ギガキャスト」が注目を集めている。今回の会場内では、ギガキャスト技術を活用して製造されたテスラ社の電気自動車「Model Y」の分解部品が展示され、専用ブースは連日大盛況となった(写真2)。とくに注目すべきは、部品点数の大幅な減少である。金属プレス加工の視点から見れば、これは業界にとって重要な変化といえるだろう。一方で、従来の自動車にはなかった形状の部品が増えているのも事実であり、今後もさらなる改良や見直しが進むと考えられる。金属プレス加工の需要は依然として高く、次世代自動車の量産技術が確立されつつある今こそ、その重要性を強くアピールする好機かも知れない。

 金属プレス加工の技術研鑽により、加工可能な素材・板厚・形状の幅は日々広がっている。今回の出展では、難加工材の試験的な成形品も積極的に展示され、多くの来場者の注目を集めた。また、出展企業の中では、「顧客の希望を聴きながらVA・VE提案を進めること」を強みとする企業が多く、次世代自動車をはじめとした「次のものづくり」に並走するパートナーとして、その真価を発揮できる可能性がある。

写真2 従来の車との構造的な違いが注目され、多くの来場者の関心を引いた

本会会員12社が卓越した技術を公開

 本会の会員企業からは12社が出展した。それぞれが高精度・高品質の成形品やユニークなVA・VE提案事例を公開し、さらに従来の鉄やステンレスにとどもらず、超ハイテン、アルミ、チタン、CFRPなどの新素材への挑戦も積極的に進めた。また、加工部品だけではなく、自社オリジナルの製品やサービスなども展示され、各社が「今、わが社がPRしたい一品」を揃えた。以下、各社のブースでとくに目を引いた成形品やサービス、トピックスなどを紹介する(順不同)。

 関プレス(茨城県日立市)は、特許技術の「割裂(わりさき)」プレスをPRした。最薄では板厚0.5mmにも割裂加工を施すことが可能である(写真3)。この加工法を活用することで、これまで複数の部品を接合していた複雑形状を一体成形によって加工できるため、強度向上・コスト削減・不良削減などのメリットが得られる。「トータルVAを提案できるのが、この工法の強み」と担当者は語る。

写真3 板厚0.5mmに施された割裂加工(関プレス)

 精密プレス加工を得意とする大貫工業所は、電磁弁部品を展示した。板厚0.5mmのSUS304を使用し、割れを発生させることなく高さ21mmの角絞りを実現している(写真4)。加工のポイントは、温度管理(若干の加熱)にある。長年にわたり自動車関連部品を幅広く手掛けてきた同社は、近年では自動車業界で培った要求精度への対応力を活かし、パワー半導体関連の部品の受注を積極的に進めている。

写真4 独自の加工技術が光る電磁弁部品(大貫工業所)

 豊島製作所(埼玉県東松山市)は、得意とする冷間鍛造技術、とくに板鍛造品を中心に展示を行った。なかでも「CVT用HUB」(写真5)は、多くの来場者の関心を集めた。この部品は硬い素材であるSAPH590を使用しながらも、わずか2工程で成形。短工程による加工で高い精度を維持しつつ、コスト削減を可能にしている。さらに、インコネル625を使用した航空機関連の試作品も展示され、同社の技術力の高さを示した。

写真5 高い精度に加え、短い加工工程も魅力の1つ(豊島製作所)

 増田製作所(東京都江東区)は、ステアリングハンガービームをはじめとする自動車関連製品(部品成形・アッセンブリ)を展示した(写真6)。近年、軽量化の需要が高まり、とくにアルミニウムの使用が増加している。アルミニウムは伸びが悪く、亀裂やシワ、カスが発生しやすいため扱いが難しい素材とされるが、同社では着実にノウハウを蓄積しており、自信を深めている。

写真6 軽量化のニーズに柔軟かつ着実に対応(増田製作所)

 ハネダユニテック(東京都江東区)は、複合機(多機能プリンタ)の部品製造を中心に、自動車、アミューズメント関連部品、蓄電池の放熱用ヒートシンクなど、幅広い分野の製品を手掛けている(写真7)。対応可能な板厚は、0.6mmの薄板から12mmの厚物(太陽光パネル関連部品)までと幅広い。長年にわたり多様な業界の顧客と取引を重ね、豊富なノウハウを蓄積してきたことから、新たな業界の顧客とも綿密な擦り合わせ行い、柔軟に対応できる点が強みである。

写真7 幅広い業界より受注した製品(ハネダユニテック)

 橋本精密工業(東京都葛飾区)は、薄板精密プレス加工及び金型内の複合カシメ加工を得意とする。材料4種類を使用した「4種複合カシメ」は、同社の技術力を象徴する製品として長年展示会で紹介されており、根強い人気と注目を集めている(写真8)。カシメ技術自体は決して最新技術ではないものの、この分野を得意とする企業は少なく、コスト低減や納期短縮の手法として近年再び注目されている。

写真8 4種の異なる材料を金型内でカシメ加工し、一体成形する(橋本精密工業)

新たな業界での受注獲得と技術活用の確立へ

 自社技術の応用や新技術の導入を通じ、新たな業界の顧客への提案力を強化した出展企業も多く見られた。社内での研究開発によって、従来プレス加工では想定されていなかった素材や形状の成形提示や、先行投資による技術開発事例の紹介も注目を集めた。また、高いVA・VE提案力を活かし、粘り強く顧客と交渉を重ねた結果、新たな業界から受注を獲得した事例も多数報告された。

 日本フォーミング(東京都葛飾区)は、幅広いサイズ・線径の成形サンプルを展示した(写真9)。自動車産業関連からイヤリング(宝飾品)関連部品まで、多様な業界に部品を提供しているが、最近では照明関係(LED)部品の需要が増加傾向にある。これらの部品は、構造の複雑さに加え、高い強度が求められるため、同社の技術力が存分に発揮される分野といえる。

写真9 線状・板材、サイズもさまざまなサンプルが並んだ(日本フォーミング)

 豊岡製作所(東京都墨田区)は、得意とする深絞りの成形サンプルを多数展示した。形状記憶合金ニッケルチタンやインコネル(板厚3mm)、純チタン(板厚30μm)など、幅広い板厚の難加工材の絞り加工に、多くの来場者が足を止めた(写真10)。「まずは、こうした材料や板厚でも絞れるということを知っていただくことが大切」と豊岡社長は語る。

写真10 板厚3mmのインコネルの深絞り加工は、多くの来場者の注目を集めた(豊岡製作所)

 河村機械工業所(東京都板橋区)は、近年新たな業界の需要に積極的に応えている。長年自動車部品の製造を手掛けてきたが、近年は鉄道関連の軸止め部品の受注にも成功した。受注までに4年を要したが、高い精度・強度に加え、付加価値の高いVA・VE提案が評価され、採用につながった。また、2024年からはコンポジット用プレス成形機(200t)を導入し、ドローンの羽の成形にも挑戦しており、さらなる新業界への展開を目指している(写真11)。

写真11 的確な提案と粘り強い交渉で、鉄道業界からの受注を獲得(河村機械工業所)

新たな事業の芽を大きく育てる

 プレス加工の枠を超え、新規事業・サービスを展開する加工メーカーの勢いが増している。社内外のニーズを捉えることで、新たな事業の柱を確立するだけでなく、自社のPRにおいて強力な「広告塔」となるケースも見られる。

 タイメック(岡山県総社市)は、従来の自動車関連の試作部品に加え、近年販売を開始した「レース向けブレーキパッド」をPRした(写真12)。乗用車を使用したレース(例:Yaris Cupなど)では、標準搭載されている「ABS(アンチロックブレーキシステム)」が、とくにコーナーで操作性を低下させることがある。この「ブレーキパッド」を使用することで、システム作動前に減速を開始し、しっかりとブレーキが効くことで操作性の安定と旋回性の向上が実現可能となる。

写真12 会社のロゴを施すことで広告塔の役割も果たす「レース向けブレーキパッド」(タイメック)

 昭芝製作所(東京都練馬区)は、同社が開発した「スマート棚卸・探索システム for 金型」をPRした。このシステムは、金型にICタグを付与し、保管場所でRFIDリーダーを金属探知機のように動かすことで、数秒以内に現場にある金型の位置を把握できる。金型取引の適正化に向け、保管料の請求を行うためにも、正確な管理体制の構築が不可欠だったことから開発された。現在10社以上から問い合わせを受けており、治具や砥石などの管理への活用を求める声も寄せられている(写真13)

写真13  「スマート棚卸・探索システム for 金型」により、新人でも数十秒から数分以内に目当ての金型を探し出す(昭芝製作所)

 東京都金属プレス工業会ブースでは、近年の取り組みをまとめた「TMSA新聞」(2024年10月30日発行)を配布した(写真14)。同工業会は、3年連続で「中小企業組合等新戦略支援事業」に採択され、DXの取り組みが大きく前進した。2024年は、「ものづくりポータルサイト『TMSAコネクテッド』を基軸とした会員企業の販売力強化プロジェクト」に取り組み、会員企業の販売力強化を支援した。プロジェクトの内容の中でとくに来場者の関心を集めたのは、「TMSAプレスチャンネル」だ。「200本以上の教育動画を保有する団体の取り組みは、他業界ではほとんど見られない」という声も寄せられた。(工業会事務局)

写真14 新しいホームページの形「TMSAコネクテッド」と業界初のTMSA新聞をピーアール(東京都金属プレス工業会)