中国特派員 斉海龍
最近、フォロワー800万人を抱えるインフルエンサー「羊毛月(ようもうげつ)」がSNSに投稿した物議を醸す動画が、瞬く間にネット上で大きな議論と怒りを引き起こた。
「仕事ってそんなに見つからないの?」というタイトルの動画で、羊毛月は軽蔑的かつ皮肉な口調で、就職活動が困難だと嘆く大学生を批判し、彼らが大げさに騒いでいると暗に示した。動画内で彼は、「毎日TikTokを見ていると、北京大学の博士や武漢大学の修士たちが就職難に苦しんでいる様子をよく目にする」と疑問を投げかけつつ、「それだけ学識があるのに、どうして仕事が見つからないの?」と問いかけた。そして、「TikTokの投稿の10本中8本が『内定ゼロ』って話題でさ、誰も気にしてないと思うんだけど…。00年代生まれの若者は職場を整えるんじゃなかったの?なのに職場にすら入れないってどういうこと?」と続けた。
この動画が拡散された後、普通の人々が直面する就職難を軽視した態度に対して多くの非難が集また。その結果、羊毛月は11月23日の夜、謝罪動画を投稿し、深刻な話題に対して不適切な表現を使ったことを認め、今後は慎重な発言を心がけると約束したが、 11月23日から26日のわずか3日間で彼のフォロワー数は877.2万人から779.7万人に急落し、約100万人のフォロワーを失った。また、ネット上で彼の素性を調査する動きも広がり、北京大学卒という学歴が虚偽である可能性が指摘された。さらに、11月25日正午には「羊毛月の60秒動画広告の費用35万元(約720万円)」という話題がWeiboのトレンドに上がった。
動画に対抗する形で、中央財経大学のコンピューターサイエンス修士を名乗る人物が、自身の経験を通じて卒業生が直面する就職の困難について語った。彼女は動画の中で、2年間で3つの仕事を転々とし、リストラや未払いに直面し、毎日早出遅帰で働いても、1年の収入が「羊毛月」の1本の広告費にも及ばないと述べた。この動画も瞬く間に注目を集め、TikTokで35万件の「いいね」を獲得し、29万回以上シェアされ、フォロワー数も一般人レベルから2.6万人へ急増した。
この事件は、単なる個人の「失態」にとどまらず、現代社会において、異なる階層に属する人々の間で生じる隔たりや、社会の変革期における多くの矛盾や課題を浮き彫りにした。
現在、卒業生の増加や産業の縮小により、若者たちはかつてないほどの競争や挑戦にさらされている。このような背景の中で、若者に必要なのは理解や支援であるにもかかわらず、羊毛月のような揶揄や無情な批判はとくに不適切である。この問題は、若者の心理的健康や職場への適応能力を軽視している社会の現状を強く示した。
また、この事件は、SNS上での世論の力が無視できないものであることを再認識させた。したがって、インフルエンサーの発言に対しては、道徳的および法的な基準を設ける必要がある。表現の自由と社会的責任の間に適切なバランスを見つけることで、発言の自由を確保しつつ、他者の正当な権利を損なわないようにすべきである。
現代において、「成功」の定義はすでに財産や地位に限定されるものではなく、日常生活における努力や苦闘を含む幅広いものとなっている。順風満帆で恵まれた環境に生まれた羊毛月には、厳しい現実の中で一歩一歩進む若者たちの本当の姿を理解することは困難かもしれないが、それこそが、彼が経験したことのない、現実社会の多様な一面なのである。
この事件は、インフルエンサー文化と現実社会の断絶の縮図とも言えるでしょう。最後に私自身の考えを述べると、インターネットの普及は生活を便利にする一方で、社会的不安の拡散も助長している。ネット社会においては、そもそも真実と虚偽を完全に見分けることは難しいものであり、他人の輝かしい成功を羨むことも、不幸を嘲笑うこともせず、それぞれが自分の人生を大切に生きることが重要である。人生における機会は平等ではなく、縁や運命も人それぞれで、幸せであろうと、不幸であろうと、それは自分自身の人生であり、その価値は自分で決めるものである。