
台湾特派員:諸治隆仁
台湾の国会に当たる立法院が荒れている。昨年、公職人員選挙罷免法改正案など3案が野党の賛成で立法院を通過・可決されたのだ。公職人員選挙罷免法改正案は罷免(リコール)選挙のハードルを高くするものとして与党は反対していた。しかし。現在の台湾立法院は少数与党状態。与党にとっては都合の悪い法律が可決された。日本の内閣に当たる行政院は2025年1月、公職人員選挙罷免法改正案はリコールのハードルを高めてしまうとして、再議請求。日本の国会本会議に相当する立法院院会は2月11日、この請求を否決し、退けた。
現在の台湾は少数与党のねじれ状態

台湾は4年に1度、日本の国会議員に当たる立法委員選挙と総統選挙が行われる。時期をずらして4年ごとに日本の統一地方選挙に当たる選挙が行われ、日本の県知事に当たる市長と、都道府県議会議員に当たる市議会議員が選ばれる。
台湾の政党は現在の頼清徳総統が党主席を務める与党の民主進歩党(民進党)、野党の中国国民党(国民党)、最近、前回の総統選挙、立法院委員選挙で台風の目となった台湾民衆党(民衆党)、これに台湾基進や時代力量などの少数政党だが、立法院に議席を持つのは民進党、国民党、それに民主党の3党。定数113議席のうち、2024年1月に行われた立法院員選挙で国民党が52議席を獲得して第1党となり、民進党は51議席、民衆党が8議席、無所属が2議席という構成。
どちらも過半数を取ることができなかったものの、2議席は国民党寄り。8議席を持つ民衆党がキャスティングボードを握っている状態だ。民衆党は当初、どちらにもつかないような素振りを見せていたが、いざスタートしてみると国民党寄り。そこで国民党は民進党にとって、歓迎できない法案を次から次へと出している。
大罷免状態に
今回の罷免請求に関する改正は、罷免の発議者と罷免に賛成する署名者の名簿には身分証明書の表と裏のコピーを添付すること。また他人の個人情報で署名を不正に行った場合には5年以下の懲役、拘留または日本円で約500万円となる100万台湾元以下の罰金を科すことを規定。この公職人員選挙罷免法改正案は2025年2月20日、発効された。
しかし、発効前であれば、旧制度で罷免選挙ができる、と民進党支持者が国民党の委員39人中31委員の罷免を請求。一方の国民党支持者が対抗して、民進党の38委員中13委員の罷免を請求。つまり114人の立法委員のうち、44人が罷免請求を受けつけられているという状態になったのである。
台湾において罷免が成立するためには次のプロセスを経る必要がある。
1.提議(提案):選挙区の有権者総数の1%以上の署名が必要
2.連署(署名):選挙区の有権者総数の10%以上の署名が必要
3.投票:有効な賛成票が反対票より多く、かつ賛成票が選挙区の有権者総数の4分の1以上で罷免が成立
2024年10月、国民党に籍を置く謝国樑基隆市長の罷免請求が行われた。しかしこのとき、罷免は不成立に終わった。
31人の国民党籍立法委員が提議を通過
2025年3月に入って、罷免請求された国民党の立法委員31人全員が第一段階の提議を通過。一方、民進党で罷免請求された13委員のうち3委員は罷免が不成立。残す10人の結果はこれからだ。
大罷免時代と言われているのは立法委員だけでなく、地方議会や県市首長も請求対象となっているからである。地方議会では10人以上の国民党議員が罷免請求されている。また、世界の半導体生産拠点となっている新竹市では高虹安市長が罷免請求されている。高虹安市長は今、話題になっているホンハイの元副総経理。郭台銘氏から推されて市長選に出馬、当選したものの、立法委員時代の秘書給与の搾取で有罪判決。さらには市長当選後もスキャンダルが発覚して、火だるま状態にある。
過去、成立した罷免請求で注目されたのは

過去に台湾では何度も罷免請求が行われてきたが、とくに注目されたのは、2020年6月に成立した台湾初の県・市長レベルでの罷免であり、当時の高雄市長であった韓国瑜氏の事例だろう。韓国瑜氏は最大野党・国民党の代表として、同年1月に民進党の蔡英文候補と総統選挙を戦い、大敗。泣きっ面に蜂状態だった。
その韓国瑜氏、2024年の立法院委員選挙において、国民党の比例代表名簿順位1番となり当選。法案審議などで賛否が同数の場合に議決権を持つ立法院長に就任している。
今回の罷免請求は過去にない大規模なもの。成立多数の場合、与野党の対立はさらにエスカレートするのは間違いない。