
タイ特派員 齋藤正行
汚染度は世界トップクラス
タイの大気汚染、とくに首都バンコクのそれは世界トップクラスの深刻さが知られる。世界各地の大気質指数(AQI⁺)を発表しているスイスの企業「IQAir」の世界ランキングでは、バンコクは常に上位に名を連ねる。直近の1月24日は8位だった。
タイでの大気汚染の度合いは、微小粒子状物質(PM2.5)の1立方メートル当たりの平均値で測定される。世界保健機関(WHO)指針の環境基準は同25マイクログラム、日本や米国は同35マイクログラム、そしてタイは同50マイクログラムに設定されている。
バンコクで実際に測定されるPM2.5の平均値は、基準値50マイクログラムのはるか上だ。先のIQAir発表のAQI⁺で世界ワースト8位となった1月24日は、バンコク都庁の発表で都内全50区のうち48区が平均値75.1マイクログラム以上の「健康に被害を及ぼしているレベル」(赤色)に達し、うち8区が同100マイクログラムを超えた。残り2区も同36.1~75マイクログラムの「健康に被害が出始めるレベル」(オレンジ色)だった。同日の平均値は同88.4マイクログラム。
気候に左右されるタイの大気汚染
タイは南部一帯を除き、毎年10月下旬に雨期が明け、徐々に気温が低下して過ごしやすい冬期が始まり、2月前辺りから暑さが戻って本格的な乾期となり、3月から4月にかけて最も暑い日が続く。本降りの雨は5月ぐらいまで戻ってこない。
大気汚染はこの冬期と乾期に悪化する。雨が大気中の不純物を洗い流さないことが最大の理由で、時期を合わせて農地での農作物収穫後の残渣焼却が行われ、大量の煙が発生する。また、常夏のタイでも冬期はいくらか涼しめで、空気が乾燥するため火事が多発する。
やはり大量の煙が撒き散らされることになる。そもそも、慢性的な交通渋滞による排気ガスの発生と、絶え間なく続く(道路・鉄道の開発といった)メガプロジェクトの工事現場で生まれる粉塵で、大気汚染が収まると期待する方がおかしいとさえ思える。
経済活動を鈍化させる各種対策
タイ政府やバンコク都庁がさまざまな対策に乗り出しているが、予防策は乏しい。たいていは事後対策で、都民の行動を規制して経済活動を鈍らせている。
予防策としては例えば、先の農地での残渣焼却の一時禁止が挙げられる。バンコク首都圏に留まらず全国規模で規制され、煙が出なければ汚染改善に貢献するだろうが、その分だけ手作業が増えて最終的には生産者の利益を損なう。ちなみに焼却は残渣を効率良く処理するためのもので、土地の移動を伴う焼き畑とは異なる。
汚染が悪化すると、バンコク都庁は企業や都民に対してテレワークなどの実施で外出を控えるよう要請し、都内の学校に休校を命じる。1月25日には中央政府レベルで、都内の都市鉄道や公共バスの一時無料化が決定された。(排気ガスを排出する)自動車での移動を減らすための試みだが、いずれも経済活動の妨げになることに変わりはない。
堂々巡りのタイ経済
車が売れないと景気が良くならないが、売れると渋滞が悪化して大気汚染の一因となる。車をどんなに売っても所詮は外資任せ、自分たちで出来ることといえば観光誘致だが、空気が悪ければ外国人を呼びづらい。「輸出が好調」とアピールする声が聞かれるが、タイの最大輸出先国である米国で今後、トランプ政権による関税政策が本格化すれば、タイへの影響も必死だ。
どこの国も似たようなものかも知れないが、タイ経済も常に堂々巡りだ。そのような意味でも、タイは電気自動車(EV)の普及を実現させなければならないのかも知れない。
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