
台湾特派員:諸治隆仁
業界はAI市場での需要に期待
テキストや画像、デザインなど、さまざまなコンテンツを作り出す生成AI。この最先端の技術を支えているのがハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)だ。この分野の半導体の生産で世界から最も注目を集めているのが台湾。その台湾でトップの技術力・生産力を持つのが台湾積体電路製造(TSMC)。九州・熊本に進出して話題になった同社は半導体チップ受託生産で世界1位のシェアを持つ。TSMCは台湾の経済だけでなく、政治までも動かす力もあるといわれている。そのため、台湾では同社の一挙手一頭足が注目されている。現在、TSMCの売上げの50%を占めているのがAI向けの半導体。今年7月に行われた記者発表で同社はAI分野のさらなる発展に期待を寄せたコメントをしている。
最大手TSMCの売上げはAI向けが好調
7月は過去最高の売上高を記録
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台湾の産業で世界から最も注目を集めているのが半導体の技術開発・生産。台湾の西北、新竹市の工業団地、新竹サイエンスパークとその周辺には半導体関連の企業が集積しており、入居企業数は600社以上。その中にはTSMCや聯華電子(UMC)のファブ(工場)が並ぶほか、ファブレスと呼ばれる自社工場を持たない半導体メーカーの聯発科技(メディアテック)や瑞昱半導体(リアルテック)などが本社を構えている。
TSMCは現在、台湾にギガファブと呼ぶ12インチ工場4ヶ所のほか、8インチが工場4ヶ所、6インチ工場が1ヶ所を展開。今年8月15日には液晶大手メーカーの群創光電(イノラックス)が持つ台南の工場買収を発表した。同社はアメリカやドイツ、日本にも進出しており、海外展開の流れも加速する一方だ。トランプ米大統領候補が「当選の際は半導体業界への規制強化も検討」という発言があったものの、TSMCの魏哲家CEOは「海外展開における工場の進出について変更はない」と発表している。
そうした中、TSMCが今年7月発表した第2四半期の連結売上高は前年同期比40.1%増の6,735億1,000万台湾ドル(約3兆892億円)、純利益が前年同期比36.3%増2,478億5,000万台湾ドル(約1兆1268億円)となった。売上比率で全体の52%を占めたのがHPC向け。TSMCの売上比率をみると、半導体需要の流れがこれまでのスマートフォン向けからAI関連向けへと変わってきていることがわかる。同社では今後もAI市場が半導体産業を牽引するという見通しを立てている。
9月4日から半導体製造装置関連の展示会「セミコンタイワン」が開催されるが、同展のテーマに掲げられているのも「AI」。TSMCを筆頭に、台湾の半導体産業界はAI分野におけるさらなる需要拡大に期待しているようだ。
駐日代表交代に李逸洋氏就任
半導体やAI分野で一層の協力を

台湾の総統府は8月16日、日本における外交の窓口機関であり、在日大使館に相当する台北駐日経済文化代表処の代表に前考試院(日本の人事院に相当)副院長の李逸洋氏が就任することを正式に発表。この発表に先立ち、謝長廷駐日代表は8月6日、退任の総統令によって、8年に渡る任期を終え、総統府の顧問である資政に就任した。
謝前代表は国立台湾大学を卒業後、京都大学大学院に留学していたこともあり、親日家であり、また知日派の中でも重鎮として知られていた。日本の国会における首相にあたる行政院長を務めていたこともある人物が台湾の海外代表機関のトップに就任するのは謝前代表が初めてのことだった。このことから、当時の蔡英文政権が日本をいかに重視していたかがわかるのではないだろうか。
新代表に就任する李逸洋氏は民進党の陳水扁政権時に党の秘書長(日本の政党の幹事長に相当)、また地方行政や国内の治安、出入国管理などの内政を担当する内政部の部長(大臣に相当)などを歴任してきた。頼清徳総統と同じ民進党内最大派閥の新潮流に所属しているということもあり、頼総統からの信望も厚いという。
今回の駐日代表就任にあたり、李逸洋氏は台湾の通信社である中央社のインタビューで、日台関係は過去10年で最もよい関係にあること、その上で、産業面では半導体やAI産業分野において、さらに協力を進めていきたいという方針を明らかにしている。李逸洋氏の着任は9月になるということだ。