タイ特派員 齋藤正行
遅々とした回復、さらなる下落
自動車関連産業の低迷が続いている。タイ工業連盟(FTI)自動車部会によると、2023年の自動車生産台数は前年比2.2%減の184万1,663台で22年からほぼ横ばいにとどまった。国内での新車販売台数は同8.7%減の77万5,780台と落ち込みを見せ、完成車輸出台数は同11.7%増の111万7,539台まで回復している。
今2024年上期はさらに厳しい数字が示された。1~6月の自動車生産台数は前年同期比17.4%減の76万1,240台、国内新車販売台数は同24.2%減の30万8,027台、完成車輸出台数は同1.9%減の51万9,040台となった。
タイの自動車生産台数は2013年に過去最高の250万台規模を記録したものの翌14年には急減して190万台を割り、じりじり戻してきたが20年にコロナ禍のあおりで140万台規模まで下げた。国内新車販売と完成者輸出の割合はほぼ半々で推移しているが、2023年はタイ国内の景気回復の遅れが反映しているためか、国内新車販売がさらに台数を減らしている。
電気自動車が牽引する国内新車販売
世界的な製造業のハブとして知られるタイで、自動車生産はコア産業として確固たる地位を築いており、生産販売の推移はタイ経済のバロメーターの一つと評される。自動車との関わりが深いタイ進出日系企業にとっても、自動車関連の各種統計は業況感の判断材料となるが、先の数字は実のところタイ進出日系企業が抱く不安を表しきれていない。中国メーカーの電気自動車(EV)の躍進がすさまじいからだ。
EVに関してはタイ政府が生産普及支援補助金を拠出し、国内での普及を推進している。周知のとおり、真っ先に乗り出してきたのが中国メーカーだ。
2023年の国内販売台数を見返してみると、バッテリー式電気自動車(BEV)が前年比603.7%増の7万3,568台、ハイブリッド車(HEV)が同60.4%増の9万2,962台と急伸していることが分かる。HEV販売は日系メーカーが健闘しているが、BEV販売は中国メーカーの独壇場だ。
今2024年上期は、BEVが前年同期比6.9%増の3万3,508台と伸び率を落としている。これはタイ政府からの補助金のうち、輸入車向けが23年で終了したためだ(タイ国内組み立て向けの補助金は25年まで継続される)。しかし、中国メーカー各社は輸入車向け補助金終了後の今年、BEV価格の最大30%の値引きを打ち出すなど、(タイ消費者保護委員会が調査に乗り出したものの)販売攻勢の手を緩めていない。
一方、HEVは同69.6%増の6万7,110台と好調だ。BEVとHEVを合算したEVの台数は同期、乗用車5台に1台まで急増した。
タイ政府の政策は期待できるのか
バンコク日本人商工会議所(JCC)が「2024年上期日系企業景気動向調査」を実施、6月下旬に回答結果を発表している。前期比で業況が「上向いた」から「悪化した」を引いた業況感DIは、23年下期実績「マイナス17」、24年上期見通し「マイナス11」、同下期見通し「プラス9」だった。
JCCは、「24年下期はインバウンドの回復の継続、タイ政府による景気対策の効果への期待などから業況感が上向く見込みだが、新車販売台数の減少など自動車関連産業が伸び悩む不安がある」とした。ここでいうインバウンドは観光業のそれ。タイ政府による昨今の景気対策も真っ先に思い浮かぶのは、「イグナイト・タイランド」という観光業を中心とした経済活性化とインフラ整備の構想だ。
観光業に傾倒する経済対策がどれだけ幅広く各種産業に刺激を与えるか、現在のところ未知といえる。自動車関連産業もしばらくは苦戦を強いられそうだ。
本文・写真:齋藤正行