インド特派員 石﨑奈保子
インドの一般道を眺めていて目に飛び込んでくるものは、自動車の他に、オートバイ、トラック、バス、リクシャー(人力車が由来の三輪車)、そして牛である。オートバイは複数乗りも珍しくなく、写真のように子供を抱いた状態で、ヘルメットも被らずに乗っている人もまだまだ多い。牛は、ヒンドゥー教において聖なる動物であるため、いつでもどこでも、たとえ道路の真ん中であっても自由に闊歩することができ、人間側が牛の通行を妨げないように配慮する。服装もカラフルであり、また、乗り方も自由である。トラックの荷台を寝台としてくつろぐ人もいる。こうした光景は、昔も今も変わらずインドに残っている。
その中で、最近様子が変わったことと言えば、タクシー配車アプリである。言わずと知れた、世界的に有名なUberは、インドでも利用が可能だ。昨年、チェンナイ(インド南部)のホテルから近くのレストランへ行く時、ホテルのドアマンから「帰りはタクシーアプリを利用すると良いですよ」と言われた。どうやらタクシー配車アプリの活用はかなり浸透しているようだ。
リーズナブルなローカルレストランで食事を終えた後、Uberでタクシーを呼ぶべきかと店主に聞いたところ、親切にも「私のアプリ“Ola”で呼んであげよう。ノーマルタクシーとスモールタクシー、どちらが良い?」とサポートをもらい、スモールタクシーを呼んでもらった。その時、画面に表示された金額は、2.5Kmで90ルピー(160円程度)。妙に安いと思ったら、スモールタクシーとはオートリクシャー(写真下)のことであったが、予めの価格設定で安心感が得られたことと、車と車の間を縫うようにスイスイと進んでくれたので、予想外にも大満足であった。
インドのタクシー配車業界は、UberとOlaが市場の80~90%を占めるが、2019年にBluSmartというスタートアップ企業が参入し、新たな展開を見せている。配車するタクシーはすべてEV車であり、CO2排出量の削減と都市交通における電気自動車の使用促進を目指している、という会社である。同社は、2023年11月、創業から5年未満の期間で1,000万回のライド(乗車)を提供し、環境貢献のマイルストーンを国内で初めて達成するという快挙を成し遂げた。価格透明性や、ゼロ・キャンセルポリシー、清潔な車内など、今まで顧客が不満に感じていた点を改善し、顧客満足度の高いタクシーサービスを提供出来ている。以下の写真は、昨年、ニューデリー国際空港から市内に向かう際に撮影したものだが、緑のナンバープレートの2台がBluSmartのEVタクシーである。
インド重工業省の発表によると、2024年2月2日時点で、インド全土には1万2,146カ所のEV充電ステーションが稼働しており、2021年と比較してその数は約12倍となっている。このように、インドのEV車のインフラ環境は年々良くなっており、利用者もますます増えていくだろう。さらにBluSmartには、アプリ内の「CO2トラッカー」機能を通じて、乗客がどれだけのCO2排出を節約したかを把握できる仕組みも備えており、UberやOlaとは一線を画している。