ホンハイと日産の興味深い関係

台湾特派員:諸治隆仁

2024年12月23日、日本の自動車メーカー、ホンダと日産自動車は経営統合の協議に入ったことを正式に発表した。その背後には台湾の企業、鴻海(ホンハイ)精密工業による日産の買収阻止もあるのではないかと報道されている。ホンハイという会社、米アップル社のiPhoneの受託製造やシャープの買収で、日本でも知名度が高い。台湾側から見ると、ホンハイと日産には興味深い関係が見えてくる。

EVも手掛けるホンハイという台湾企業

鴻海精密工業本社(台湾・新北市)

ホンハイ(通称フォックスコン)は台北市の隣にある新北市土城区に本社を置く台湾企業だ。同社はテレビのプラスチック部品の製造会社として、郭台銘董事長(テリー・ゴウ、日本の会長に相当)が台湾で1974年に創業。1980年代に入って、パソコンの部品製造で急成長した。

その後、中国への進出と積極投資を進め、1990年代にはパソコン本体の製造受託でさらに事業を拡大していった。同社はEMS(製造受託企業)であることから、表に出ることはほとんどなかった。

ホンハイが注目を集め始めたのは米アップル社のスマートフォンiPhoneの製造受託を始めた頃だろう。同社は現在、EMSの世界最大企業グループになっている。

そのホンハイ、すでにEV事業に着手し、台湾の自動車メーカー、裕隆汽車(ユーロン)と組んで、「ラクスジェン(LUXGEN)n7」を市場投入している。

技術の日産、そのDNAを受け継ぐ台湾企業

ユーロンのラクスジェンショールーム(台湾・新北市)

「n7」を製造・販売しているユーロンは1953年に設立された。苗栗県三義郷に本社を置く同社は1957年、日産と技術提携を結び、1959年に日産製トラックのノックダウン生産、1960年には日産製乗用車のノックダウン生産を開始。1985年には日産からの資本参加が行われ、日産の台湾現地生産メーカーとしての体制を確立していった。

ユーロンがオリジナル車種の第1号「フェイリン」を開発・製造・販売したのは翌1986年。しかしこのモデルは当時ユーロンが生産していた日産スタンザの駆動系やエンジンなどを流用したものだった。

ユーロンが完全自社開発、自社ブランドという悲願を達成したのは2009年8月。それがプレミアムブランドのラクスジェンだ。第1号となったのがMPV(多目的車)「7MPV」だった。

ユーロンの自社ブランドであるラクスジェンが2017年、日本の自動車関係者の一部で話題になった。同ブランドのSUV「U6」がモデルチェンジしたときのことだ。U6のモデルチェンジを手掛けたのは元日産、R35 GT-Rの開発主査を務めた「ミスターGT-R」と呼ばれた水野和敏氏だったのである。水野氏は日産を退社後、ユーロンのグループ会社、華創車電技術中心(HAITEC)の開発担当副社長として迎え入れられていた。

U6は開発ドライバーにR35GT-Rでも担当したレーサーの鈴木利男氏を起用。またモデルチェンジに際して新たにラインアップされた「U6GT」のエンジンは日産のレース車両のエンジンチューニングを行っている東名エンジン製を搭載するなど、日産で培われた技術と台湾の技術が融合されて開発された車両だったのである。

ラクスジェンn7というEV

ホンハイとユーロンとの共同開発「ラクスジェンn7」

ラクスジェンは販売不振がたたり、現在は台湾市場で3車種のみを販売している。そのうちの「n7」は2022年10月に発表され、2023年末からデリバリーが開始されたEVだ。この「n7」の開発を行ったのはユーロンとホンハイの合弁会社の鴻華先進科技(フォックストロン)であり、「n7」のベースになっているのはホンハイの自社開発で、2022年10月に発表された「MODEL C」である。

「n7」には日本の技術も採用されている。回生協調ブレーキシステムなどの制動系の一部はアイシングループのアドヴィクス製が、また駆動モーターはニデック製が搭載されている。

ホンハイで現在EV事業の最高戦略責任者(CSO)を務めているのは日産で副COO(最高執行責任者)まで務めた関潤氏。同氏は2020年にニデックの特別顧問に就任。その後、2021年にCEOに就任、2022年4月にCOO降格、同年9月、COOを退任し、2023年1月からはホンハイで現職に就いている。

ラクスジェンを生産するユーロンはその成り立ちなどから考えると「技術の日産」のDNAを受け継いでいるメーカーだといえる。同社は現在も日産の台湾生産を受託しており、販売は同社グループ企業の裕隆日産が行っている。そしてユーロンのラクスジェンでEVの開発を担っているのはホンハイであり、そのホンハイにおいてEV事業のトップにいるのが元日産の関潤氏。関潤氏がホンハイのCSOに転じる前は「n7」の核となる駆動モーターを作っていたニデックの経営者だった。

ホンハイは日産を買収するというような意思を表明していない。しかし、こうした各メーカーの過去の流れや、現在のホンハイとユーロンの関係なども見ていくと、ホンハイが日産に関心を持っても不思議ではないだろう。