プレミア12優勝で紙幣デザイン変更に期待の声も

台湾特派員:諸治隆仁

今年11月24日、台湾代表が優勝して終わった世界野球ソフトボール連盟(WBSC)主催の「ラグザス presents 第3回WBSCプレミア12」。これまでにリトルリーグの世界大会で台湾代表チームが優勝したことはあった。また台湾の成年フル代表チームがアジア大会で優勝したこともある。しかし、国際大会で優勝したことは初めてだ。

台湾は半導体だけじゃないと頼総統

プレミア12決勝戦の翌々日、11月26日には代表チームの優勝祝賀パレードが台北市で行われ、平日の午後にも関わらず大勢の観客が沿道を埋め尽くした。6割という驚異的な打率で大会MVPに輝いたキャプテンの陳傑憲選手をはじめ、スタッフも含めた代表チームほぼ全員が参加し、軍が提供した大型車両で総統府周辺を約30分かけてパレード。観客は大会中に会場内で歌われた応援歌を歌い、喜びを分かち合った。

大会MVPに輝いた陳傑憲選手(右)

台湾代表チームには日本や日本企業に所縁のある選手が少なくない。陳傑憲選手は高校時代、甲子園を目指し、岡山県の共生高等学校へ留学。現在の所属チームは日本企業との協業も多い統一グループがオーナーの統一ライオンズだ。またセットアッパーの陳冠宇選手は2020年まで千葉ロッテのリリーフとして活躍。現在は日系企業の楽天がオーナーの楽天モンキーズに所属している。

台湾総統府では頼清徳総統、蕭美琴副総統らが出迎え、その健闘を讃えた。頼総統は「台湾が半導体だけでなく野球もあることを世界に見せることができた」と選手たちに労いの言葉をかけた。

駐在員チームが活躍する新竹のアマ球界

戦前の台湾、台湾球史を知る人はこの優勝を感慨深く見ていたようだ。日本統治時代の1931年(昭和6年)、台湾代表の嘉義農林学校野球部は第17回全国中等学校優勝野球大会で決勝まで駒を進めた。しかし愛知県代表の中京商業に敗れ、優勝旗を持ち帰ることは叶わなかった。しかし、93年後の今年、台湾代表は優勝メダルを持ち帰ったからである。

嘉義農林の話は日本でも公開された映画「KANO 1931海の向こうの甲子園」に描かれた。この映画にはサイドストーリーがある。映画の主人公で嘉義農林のエースだった呉明捷選手のお孫さんが劇中、台北商業のピッチャー役で登場していた。

南部の嘉義市内広場には呉明捷選手の像が設置されている

当時、呉選手のお孫さんは台湾に駐在。新竹市で日本人駐在員らが結成している野球チーム「呑兵衛’s」の選手だった。同チーム、現在は新竹市硬式野球リーグでベスト8に入ることがあるほどの強豪だが、かつては選手の多くが日系半導体製造装置や周辺機器メーカー駐在員で試合に出られる選手の人数を心配することもあったという。「新竹市内の大学に留学する学生が増え、チームに参加している。駐在員だけではなくなった。おかげで人数の心配はなくなったようだ」とOBは語る。

日系企業も優勝セールに参加

今回の台湾代表チーム優勝で、スポンサー企業はもちろん、そうではない企業もこのビジネスチャンスを逃すまいとセールやキャンペーンを展開した。

この盛り上がりに乗じたのは台湾企業だけではない。台北JR東日本大飯店ではレストランで指定ビールを1杯注文すると1杯無料、台湾スシローがビールを半額、ファミリーマートがコーヒー1杯注文で1杯無料、また、セブンイレブンが指定商品を120元以上購入でボーナスポイント付与など、台湾に進出している日系企業や日系関連企業も記念セールを実施した。

政府には少年野球チームが絵面の500元紙幣を今回の台湾代表チームに変えて欲しいと要望が上がったほどの盛り上がりだったプレミア12の台湾優勝。

「次はワールドベースボールクラシック(WBC)で優勝」「日本代表ともう一度、決勝」と台湾のファンは代表チームに期待を寄せる。2026年のWBC、台湾は予選からの出場。そのとき、500元紙幣のデザインが本当に今回の台湾代表になっているかもしれない。