
ドイツ特派員 畠山佳奈子
前回では一般的なドイツの教育システムについてお伝えしましたが、今回はドイツの職業教育についてお伝えします。
ドイツでは小学校を4年生で修了した後、その時点で大学進学など高等教育への進学を選ばなかった場合、前回お伝えしたようにレアルシューレ(Realschule、実科学校)かハウプトシューレ(Hauptschule、基幹学校)に進学します。
中等教育(5年生から9,10年生)を修了した生徒は、デュアルシステムに基づく職業教育を選択できます。
デュアルシステムの概要
デュアルシステムは、以下の2つの主要な要素で構成されています。期間は通常2~3年半です。
- 職業学校(Berufsschule): 週に1~2日、職業学校で理論的な知識を学びます。カリキュラムには、専門分野の学習(例: 工業、商業、医療)に加え、数学や外国語などの一般教養科目が含まれます。
- 企業内訓練(Ausbildung): 週に3~4日、契約を結んだ企業で実際の業務を通じて実践的なスキルを習得します。企業は訓練生に給与を支払い、実務経験を提供します。
この組み合わせにより、学生は理論と実践の両面から職業スキルを身につけることができます。

デュアルシステムの特質は、労働組合、企業、政府の緊密な連携にあります。この協力体制により、職業教育の質が維持され、労働市場のニーズに即した人材育成が可能となっています。 専門的なスキルと知識を段階的に習得し、最終試験(Gesellenprüfung)に合格することで「職人資格(Geselle)」を取得します。
職人資格(Geselle)とは
ドイツの職業教育における国家資格であり、特定の職種における熟練職人として認定される称号です。この資格を取得するためには、通常3年から3年半の職業訓練(アウスビルドゥング)を修了し、最終試験に合格する必要があります。ゲゼレ資格は、EU諸国でも認められており、取得者は国際的にプロフェッショナルとして活躍することが可能です。
職業教育の利点
- 即戦力の育成: 学生は企業内での実務経験を積むため、卒業後すぐに労働市場で活躍できるスキルを持ちます。
- 低い失業率: 職業教育を受けた若者の失業率は低く、安定した雇用につながっています。
- 企業の関与: 企業は自社のニーズに合った人材を育成でき、労働力の質を高めることができます。職業訓練を行い、そのままその企業に就職するケースが多くみられます。企業側も優秀な人材をそのまま雇用できるので、まさにWIN_WINと言えます。
日本人の中にも、職人資格(Geselle)を取得するためにドイツに来られる方がいらっしゃいます。
マイスターへの道のり
ドイツの「マイスター資格(Meisterbrief)」は、特定の職種における最高位の職業資格であり、熟練した専門家としての証明です。まさにプロ中のプロといえる資格です。

この資格を取得する一般的にはゲゼレ資格取得後、さらに数年間の実務経験を積むことが推奨されます。この期間に専門知識と技術を深め、マイスター試験への準備を行います。
(写真: www.newsdigest.deのホームページより)
マイスター学校への入学
多くの志願者は、国家試験であるマイスター試験の準備として専門学校に通い、技術的知識、経営学、教育学などを体系的に学びます。
マイスター資格の需要と現状
後継者不足により、マイスターを雇って工房を引き継ぐケースや、工房が大きくなり社員の増加にあたり複数のマイスターを採用する企業が増えています。特に工業分野では、300種類以上のマイスター資格が存在しており、ゲゼレやマイスター資格を取得した後に企業で働く人も多く見られます。
また、マイスター資格は大学の学位と同等とみなされており、「手に職を付ける」という価値観が現在でも根強い人気を保っています。
最後に
少子化による訓練生不足や、デジタルスキルや新興産業への対応の遅れなど、デュアルシステムには課題も指摘されています。しかし、ドイツの職業教育は、デュアルシステムを通じて理論と実践を効果的に組み合わせ、労働市場のニーズに即した人材を育成しています。このシステムは他国の職業教育モデルとしても高い評価を受けています。
参考資料:
ドイツの職業教育を支えるデュアルシステムとは?理論と実践の融合|EBカズ@note教育者
公共職業教育訓練(ドイツ:2009年6月)|フォーカス| 労働政策研究・研修機構(JILPT)
ドイツでゲゼレマイスター留学 | ドイツでゲゼレ・マイスター留学で活躍したいなら / 株式会社ダヴィンチインターナショナル
DIHK – Deutsche Industrie- und Handelskammer