タイ特派員 齋藤正行
バンコクで11月20日から23日まで開催された「METALEX(メタレックス)2024」の会場で、「タイ・サブコン振興協会」のチャニン・カオチャン会長に東京都金属プレス工業会としてインタビュー、タイの下請け業者(サブコン)を取り巻く環境をお話いただいた。
自動車産業から精密機器産業へのシフト
当協会はおよそ500社の会員を有し、多くが自動車産業に携わっている。タイは今年、金融機関がローン審査を厳格化したことなどを理由に、新車販売が低迷。加えて海外情勢の煽りを受け、輸出台数も減少した。当然それは生産台数の引き下げに直結し、同産業に携わる会員も受注を40~50%まで減らしている。
一方で、精密機器産業が成長している。とくにプリント基板(PCB)は、EV、コンピュータ周辺、ソーラーパネル用インバータ、防犯カメラなど幅広く利用され、外資系PBCメーカーの直接投資が増えている。当協会は、自動車産業から精密機器産業への会員の移行を促している。現在、会員のおよそ20%が精密機器産業に携わっており、今後その割合が高まっていくだろう。
また、今年第3四半期はGDP成長率およそ3%を達成した。景気が回復し、不良債権処理も進み、国民が購買力を取り戻せば、自動車購入のローン審査も通常レベルに戻る。自動車産業も年明けには上向きに転じると期待している。
一律ではなく熟練度を評価する賃金形態を
賃金に関しては、年明けにも最低賃金が全国統一で1日当たり400バーツ(1,800円相当)に引き上げられるようだが(インタビュー時点では検討段階)、当協会の会員も多くがそれ以上の賃金を払っており、さほどの影響はないと思われる。賃金形態はむしろ、熟練工と非熟練工の差別化を反映させるべきと考える。400バーツへの引き上げというなら、それは熟練工に対して実施すべきだと政府に訴えており、一定の理解は示してくれている。
効率良い人材確保を実現
労働力の確保は、当協会の会員も、導入して久しいオートメーション化、諸外国からの労働者の確保、大学や職業訓練校との連携による人材育成などで実現できている。タイも日本同様に高齢化社会を迎えているが、タイミングとしては始まったばかりで極端な人材不足はない。
オートメーション化の進化は非熟練工をより不要としていく。外国からの人材誘致は、周辺諸国からの量的な労働者の確保のみならず、高度人材も含む。政府による長期ビザの発給も相まって、日系を含む外資企業からの優秀な人材を確保できている。また、メーカーと教育機関の連携は双方にメリットをもたらし、若い人材が即戦力として企業で活躍できる機会を創出させる。
生産とマネジメントと統合したDX活用
DX(デジタルトランスフォーメーション)の対象は、生産にとどまらないと考えている。会社経営こそがビジネスであり、生産とマネジメントを統合した導入であるべきと考える。オートメーション化とデジタル化を融合させれば、例えばCO2(二酸化炭素)削減といった環境保全も実現する。その一例の太陽光パネルへの投資は、タイ政府も支援している。
メタレックスは東南アジア地域最大規模と評される工作機械および金属加工の展示会で、今年38回目の開催となった。主催者発表で、世界50カ国からの3000品目を超える機械・技術・知能材料・AI(人工知能)技術が展示され、東南アジア地域から10万人を超す来場者が訪れた。メタレックスの開催によって創出される貿易価値は推定70 億バーツ(300億円相当)規模としている。
会場では、タイ進出日系企業はもちろん、日本からの申し込みでブースを出展する日系企業が多く見られ、日本のものづくりになくてはならない存在の展示会と実感させられる。しかしその一方で、「メタレックスに出ること」を目的としてしまう日系企業も存在する。出展に見合う売り上げを達成できないと、配った名刺の枚数を成果として後は不景気に責任を転嫁する姿を、時折見かける。タイ社会との誠実な向き合いが常に求められる。