タイにとって試練の2024年 日系企業も「コロナ禍の頃よりひどい」

タイ特派員 齋藤正行

タイの2024年は「不景気」の一言で終わりそうだ。明らかな伸びが見られたのは観光業のみで、そのほか多くの業界は試練続きだった。タイ政府は輸出が好調とアピールしているが、肝心の貿易収支は統計によって黒字だったり赤字だったりと、何とも不正確だ。

多くのタイ進出日系企業が携わる自動車産業はとくに、低迷ぶりが目立つ。最終的な数字はもちろん年明けしばらくしての発表となるが、生産台数で前年比およそ20%減、国内新車販売台数でおよそ40%減の落ち込みは否めない。

スバル車がタイでの組み立てを2024年12月30日に終了、スズキも四輪車の組立工場を来年内に閉鎖すると、それぞれ2024年半ばに発表している。最近では日産も、タイ工場の従業員1000人を配置転換もしくは削減すると明らかにした。前向きな動きは、トヨタによるハイブリット車(HV)の増産計画ぐらいだ(投資額550億バーツ(2500億円相当)、時期は未発表)。

 在タイ日本人も、同胞に会えば景気の悪さを口にする。簡単にまとめてみても、

「受注が半減」(自動車部品メーカー)

「2021年に回復の兆しが見えたが、前年の需要が重なっただけ。以降は伸びがない」(梱包材メーカー)

「2024年上半期は全滅、下半期で多少持ち直し」(IT会社)

「清算の相談があったコロナ禍の頃よりひどい」(コンサルティング会社)

「駐在員はたいてい、前任が2024年3月に本帰国して同人数の後任が4月に着任するものだが、2024年は後任が少なく半減に」(日本人の子どもを受け入れる教育機関)

「通年の売り上げが3割落ち」(日本人を対象にした不動産仲介会社)

など、枚挙に暇がない。正確な数字を表しているわけではないが、在タイ日本人の景況感が伝わってきて、製造業にとどまらず幅広い業界で景気が悪化している、もしくはコロナ禍の影響から脱していないことが分かる。

 「コロナ禍の頃よりひどい」という言葉は、決して大げさではない。先の自動車(新車)国内販売台数は2024年10月、2021年5月にロックダウンが解除されて以降、54カ月ぶりの少なさまで落ち込んだ(単月で3万7691台、11月にわずかながら持ち直し)。

自動車が売れない理由は明らかで、ローン審査の厳格化にある。国民の負債が膨れ上がっており、ローン返済がままならないからだ。以前に発表された統計では、2023年末時点の家計債務残高は前年比3%増の16兆3600億バーツ、GDP(国内総生産)比で91.3%に達している。

タイ政府が2024年12月の閣議で、負債を抱える個人や中小企業を対象に、元金返済の負担緩和や利息支払い猶予などの措置を承認したが、国民が購買力を取り戻せるのはもう少し先になりそうだ。

そうするとやはり、外貨を獲得しやすい観光業に注力するのは当然のことかも知れない。「観光とスポーツの年」にするというペートーンターン首相の政権運営に基づき、タイ政府は来年を「Amazing Thailand Grand Tourism and Sports Year 2025」に設定。

ソーラウォン・ティエントーン観光スポーツ相は2024年12月24日、来年の外国人入国者数4000万人、観光収益2兆8000億バーツ(13兆円相当)の達成を目指すことを明らかにした。2024年は3500万人、2兆6000億バーツの見込みだ。ちなみに同相は観光業において、本来の魅力に円安効果が相乗した日本を、タイの競合とみなす発言をしている。

企業によるタイへの投資のみならず、個人レベルでのタイ旅行も、経済回復に貢献するかも知れない。

旅客であふれるスワンナプーム空港