インド特派員 石﨑奈保子
業界はAI市場での需要に期待
インド人の魅力のひとつは、何といっても「Jugaad(ジュガール)の精神」である。ヒンドゥー語で「革新的な問題解決の方法」または「即席で独創的な創意工夫」などと訳され、ヒト・モノ・カネなど資源が限られている中、あれこれと知恵を絞り工夫を凝らして目の前の問題を解決することを指す。
Jugaad(ジュガール)とは、1980年代にインド・パンジャブ州(北インド)の農村部において古いトラックや自動車の部品を組み合わせて自家製の乗り物を即興製作していたことに由来する。ディーゼルポンプエンジンや古い自動車の部品を木製のカートに取り付けた簡易的な車をJugaadと呼び、ありもので何とかしてしまうインド式のDIYであり、裏技である。
「必要は発明の母」というが、インド人の発明品はとにかく面白い。洗濯機をミキサー代わりにしてマンゴーラッシー(ヨーグルト風飲料)を作ったり、ペットボトルとチューブを病院の点滴のように組み合わせ畑の灌漑システムにしたり、バイク用ヘルメット(発泡スチロールが緩衝材)の中に氷を入れてクーラーボックス代わりとしていたりと、村は即席の愛用品で溢れている。
このように機知に富んだ柔軟な低コストイノベーションは、今では ” Jugaad Innovation”として世界の注目を集めている。実際に、GE、Siemens、タタ、IBM、シチズンなどの企業は、この考えを活用し成功を収めた。例えばGE社の場合、農村地帯でも使えるような、バッテリーが長時間持続する携帯型の心電図デバイスを開発した。その背景には、インドでは心臓発作による死者が多く、特に農村地帯には病院が少なく電力不足という社会課題があった。
また大企業ではなく、一人の陶芸家が発明の例もある。2001年にインドで起こった大地震をきっかけに発明された、電力を必要としない簡易冷蔵庫「MittiCool」。扉内上段に水を入れると粘土に浸透し、蒸発する気化熱によって中の食材を冷やすという仕組み。これこそ、ありもので解決品を生み出すというJugaad精神そのもので、環境に優しいばかりでなく、コスト的にも1台約5000円と財布にも優しい。
ヒト・モノ・カネが限られているのは、日本の中小企業も同じである。下記に挙げる「イノベーションを起こすための6つの基本原則」は『Jugaad innovation』(著者:ジャイディープ・プラブ氏)からの引用であるが、日本企業にとっても大いに参考になるだろう。
【6原則】
- 逆境で一発逆転のチャンスを探す
- 少ない投資で最大の効果をえる
- 柔軟に考え行動する
- シンプルさを維持する
- 今主流ではないユーザー層のことも考慮する
- 直感に従って行う