「消費のダウングレード」ー中国若者層の消費に与えた影響

中国特派員 斉海龍


2023 年1月8日、中国は3 年以上続いた「ゼロコロナ」政策を終わらせ、すべての防疫措置を解除した。当時、外部の予想では、パンデミック後に力強い経済回復が訪れ、抑制された需要から経済が反発すると期待されていたが、不動産危機の悪化と経済指標の継続的な低迷により、人々の信頼感は次第に薄れ、消費者支出は減速し始めた。解除から現在に至るまで、「消費のダウングレード」「中産階級の貧困化」「若者の失業率」「デフレーション」「35 歳危機」「断崖式の給与削減」といった話題が、中国のインターネットのホットトピックスとして様々なタイミングで注目されている。

「消費のダウングレード」は「消費のアップグレード」と対比される概念であり、その特徴は、消費者が高級品や豪華な商品を盲目的に追求するのではなく、消費の実用性やコストパフォーマンスにより注目する点である。今年の端午節の連休統計データによると、2019 年のパンデミック前と比べて旅行者数は13%増加したものの、総消費は5%減少しており、物価の上昇を考慮すると、実際の1 人当たりの旅行消費額は約20%減少しているはずである。

2024 年以降、若者層における消費のダウングレードが顕著になっており、経済的なプレッシャーに対応する一方で、消費に対する考え方も次第に合理的かつ実用的に変わり、以下にその具体的な表れを説明する。

ショッピングルートの変化

オンライン消費:かつては京東やタオバオなどの高品質でブランド志向のプラットフォームで買い物をしていた若者たちが、今ではコスト削減のために、低価格や中古品を扱うピンドゥオドゥオや閑魚といったプラットフォームにシフトしている。今年の「6・18 セール」では、タオバオやアリババの売上成長率が過去3 年間で最低となり、最大の投資がされながらも最も効果が出なかったとされている。一方、低価格市場をターゲットにしているピンドゥオドゥオ(ユーザーの70%が女性で、65%が低所得層の地方都市の住民)では、業績が急増し、第1 四半期の収益は前年同期比60%増、利益は212%増の80 億元を超えた。

オフライン消費:以前は大型ショッピングモールやブランド店で買い物を楽しんでいた若者たちが、今では卸売市場やディスカウントストアなど、よりコストパフォーマンスの高い場所で買い物をする傾向がある。

消費観念の変化


より合理的消費に:前に比べて、若者たちは商品選びにおいて実用性を重視し、ブランドや流行を盲目的に追い求めることは少なくなっている。また、自身の経済状況に基づいて不要な消費を削減し、例えば、頻繁に外食やデリバリーを利用していたところから、自炊する人が増えている。

旅行のダウングレード

旅行先の選択:高額な海外旅行や人気観光都市を追い求めることは少なくなり、コストが低く、かつ人混みを避けて現地の文化をじっくり体験できる国内の小さな観光地や地方都市を選ぶ傾向がある。

交通手段:若者たちは旅行中の費用を抑えるため、飛行機のような高額な交通手段を避け、電車や長距離バスなど公共交通機関を利用するようになっている。

宿泊先の選択:高級ホテルよりも、リーズナブルな民宿やユースホステルが人気の宿泊先となっている。


観光地の選択:高額な入場料がかかる観光地を避け、無料または低価格の観光スポットを選ぶ傾向にある。

電子製品の消費ダウングレード


スマートフォンの買い替え頻度の低下:多くの若者がスマートフォンの使用期間を延ばし、小さな故障があってもすぐに新しいものを購入するのではなく、修理して使い続けるようになっている。


その他の電子製品の購入意欲の低下:タブレットやゲーム機など、他の電子製品に対しても若者の購入意欲は減少している。

交際費の削減


交際費の節約:若者は無駄な交際費を削減している。かつては友人のパーティーや誕生日会に参加し、高額なプレゼントを贈ることが一般的だが、現在では家庭での食事会やアウトドアでのピクニックなど、シンプルな集まりが好まれるようになり、プレゼントも価格よりも気持ちを重視するようになっている。

恋愛消費の合理化:恋愛中の若者も恋愛にかかる費用を抑え始めている。以前は高級レストランでの食事や映画鑑賞、高価なプレゼントが主流だが、今では公園を散歩したり、自転車に乗ったり、日の出や日の入りを見るなど、低コストでも充実したデートを楽しむ傾向がある。

全体として、2024 年の若者の消費のダウングレードは、経済情勢や消費観念の変化など、さまざまな要因が重なって生じている。この現象は、若者が経済的なプレッシャーに対応しているだけでなく、彼らの消費に対する考え方が次第に成熟し、合理的になっていることも示している。