ノーベル化学賞に硤合憲三氏

10月7日、硤合憲三(そあいけんそう)氏(東京理科大学名誉教授)がノーベル化学賞を受賞しました。硤合氏が評価されたのは、化学反応の進み方を根本から理解するうえで重要な「自己触媒反応」という仕組みを実証し、生命の成り立ちに関わる大きな謎に新しい説明を与えた点です。

自己触媒反応とは、反応の途中で生まれた物質が、同じ反応をさらに進める役割を果たす仕組みです。通常、化学反応を進めるためには外から触媒を加えますが、この反応では生成した物質そのものが触媒として働きます。そのため、反応が進むほどその働きが強まり、左右の形のどちらか一方が多くなる“偏り”が大きくなっていきます。こうした反応が自ら片方へ偏っていく現象は「硤合反応」と呼ばれ、世界中の化学者から高い関心を集めています。

生命をつくるアミノ酸や糖には左右の形があり、自然界ではそのうち一方だけが使われています。この左右の形の片寄りは「ホモキラリティー」と呼ばれ、生命がどのように始まったのかを考えるうえで長く大きな謎とされてきました。今回の発見は、この謎の解明に向けて重要な手がかりを示した点で高く評価されました。

硤合氏は1950年に広島県で生まれ、東京大学で有機化学を学びました。米国での研究員生活を経て東京理科大学に着任し、長年にわたり学生とともに地道な研究を続けてきました。今回の受賞は、私立大学の一研究室から世界的な発見が生まれたことを示す象徴的な出来事でもあります。

硤合反応の発見は、分子のわずかな違いが大きな差へと広がる仕組みを示し、生命の起源研究から実用的な化学合成まで幅広い分野に新たな可能性をもたらしました。基礎研究の積み重ねが国際的な評価につながった今回の受賞は、科学が持つ探究の力とその社会的意義を改めて示すものです。

日本人として10人目のノーベル化学賞を受賞した硤合憲三氏。