2026年2月末に発生した中東での軍事衝突は、世界のエネルギー供給体制を一挙に不安定化させた。米国とイスラエルによるイラン攻撃を契機に地域情勢は緊迫し、原油輸送の要衝であるホルムズ海峡は事実上の封鎖状態となった。日本が輸入する原油の約9割が同海峡を通過するため、国内のエネルギー供給は即座に不安定化し、原油価格の急騰と物流停滞が同時に進行した。この地政学リスクは、エネルギー多消費型産業だけでなく、幅広い製造業に影響を及ぼしている。
とくに影響が大きいのが塗料・化学品分野である。塗料の基礎原料であるナフサやミネラルスピリットなどの溶剤、有機顔料の原料となる石油化学品の調達が急速に難しくなり、国内メーカーは供給体制の見直しを迫られている。原油精製の上流工程が混乱し、溶剤メーカーは出荷制限や割当供給に踏み切らざるを得ない状況で、価格も短期間で急騰している。
大手塗料メーカーも対応を強化している。関西ペイントは4月2日からシンナー製品の出荷統制を開始し、供給量を前年実績の範囲に制限したうえ、4月13日以降は50%超の値上げを実施する。日本ペイントも3月19日発注分からシンナー類を一律75%値上げし、一部製品で受注停止や割当供給に移行している。これらの動きは、原料調達が極めて困難になっている現状を示している。
自動車部品製造は、金属部品の防錆塗装、樹脂部品のトップコート、金型や治具の洗浄工程など、多くの工程で溶剤や塗料を使用するため影響を受ける可能性が大きい。今後供給が逼迫した際にはOEM向けが優先される業界構造があるため、市中流通や中小企業向けの供給が不安定になりやすい。こうした塗料メーカー側の供給不安定化は、部品メーカーの生産計画にも波及する可能性が高い。
中小部品メーカーに起こり得る影響としては、必要な溶剤が入らず塗装工程が遅延するリスク、溶剤・樹脂・顔料の価格上昇による製造原価の増加、代替材料への切り替え検討、OEMの納期管理が一段と厳しくなることなどが挙げられる。中小企業にとっては、原材料の確保が経営リスクとして顕在化し、従来の価格交渉や在庫管理だけでは対応しきれない局面に入っている。
今回の原材料逼迫に対し、中小部品メーカーは短期と中期で対策を整理する必要がある。短期的には、溶剤や塗料の在庫と使用量を正確に把握し、主要サプライヤーから供給見通しを早めに確認することが重要である。あわせて複数の調達先を確保し、供給不安定化の兆候がある段階でOEMやTier1へ情報を共有しておくことで、後の納期調整リスクを軽減できる。
中期的には、代替溶剤・代替塗料の使用可否を技術部門と検討し、洗浄工程や塗布量の見直しなど、溶剤使用量を抑える取り組みを進める必要がある。また、水性化など原油依存度を下げる方向性も選択肢となる。さらに、原材料価格の上昇が避けられない状況であるため、原価上昇の根拠や代替困難な理由を整理し、価格転嫁に向けた説明準備を整えておくことが求められる。今回の事態は供給構造の脆弱性を示しており、調達リスクを経営課題として扱う重要性が高まっている。
今後の見通しとしては、ホルムズ海峡の情勢が改善しない限り、原材料の安定供給は期待しにくい。溶剤や樹脂、顔料の不足は少なくとも初夏にかけて続く可能性が高く、メーカー各社は代替溶剤の活用や水性化の加速など、中長期的な対策を検討する必要がある。今回の事態は、原油依存型の供給構造が抱える脆弱性を改めて浮き彫りにした。


